公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
 シルヴィアはテーブルに突っ伏して盛大にため息を漏らす。

「……私、ダメダメ過ぎる」

 いつもなら綺麗に整えられたプラチナブランドの髪は適当に束ねられていてボサボサだし、羽織った白衣で誤魔化しているが着ている服もしわくちゃ。
 公爵令嬢どころか淑女あるまじき格好である。
 朝、思いっきり寝坊した。
 目が覚めた時、どうして誰も起こしてくれないのよ! と思いかけ、荷物だらけの部屋を見て結婚して家を出たんだったと思い出した。

『ハルさん、大変っ! 遅刻しちゃう!!』

 と部屋の前で声をかけたけれど応答はなく、キッチンに一人分の食器が洗って伏せられていたのを見てようやく彼はもう出勤した後なのだと知った。
 声すらかけてもらえなかった。そんな事に嘆く余裕もなく、シルヴィアは何とか身支度を整えて家を飛び出したのだった。

「……くしゅん」

 小さくくしゃみをしたシルヴィアは、力なくぼんやりと回想を終える。
 お湯の出し方が分からず、水でシャワーを浴びたのはやはり不味かったなと昨日ハルに聞いておかなかった事を後悔した。

「シルさん、元気ないですね」

 そんな声と共にシルヴィアの前の席に座ったのはベロニカだった。

「……お姉様」

 自分から言い出したくせに、たった一日で弱音を吐くなんてできない。
 シルヴィアは顔を伏せたまま、ぐっと歯を食いしばる。
 もし今優しい言葉の一つでもかけられたらきっとみっともなくポロポロと泣いてしまう。
 ベルと一緒に過ごすうちになんでもできる気になっていた。でも実際はベルだけじゃなくて屋敷の使用人達も含めて気づかないうちに沢山手助けをしていてくれたのだとようやくシルヴィアは気がついた。
 何もできない世間知らずなお嬢様が勘違いをして、結婚を迫ったあげく押しかけてきて迷惑をかけている。
 きっとハルに呆れられてしまったに違いない。
 もしかしたらもう顔も見たくないくらい嫌われてしまったのかもしれない。
 だから名前も呼んでくれないのかしらとシルヴィアの思考はどんどん悪い方向に落ちていく。

「シルさん、顔を上げてください」

 社長夫人命令です、と言われシルヴィアは渋々顔を上げる。

「とうっ」

「!?」

 金色の目がイタズラっぽく笑ったと思ったら、口に何かを放り込まれた。
 サクサクとした食感と甘酸っぱい味が口内に広がる。

「……美味しい」

「でしょう。ドライフルーツから手作りなんですよ、このエナジーバー」

 ドヤっと笑ったベロニカはシルヴィアの口の中にもう一つ放り込みながら、

「ま、作ったのは私じゃないのですけどね」

 と綺麗にラッピングされた箱を差し出す。
 中をみれば一口サイズに切り分け丁寧に個包装されたお菓子がたくさん入っていた。

「こればっかり食べちゃダメですけど。そろそろ凹んでる頃だろうから、とお預かりしていたのでお渡しします」

 誰から? と疑問を浮かべたシルヴィアは、ああ、きっとベルねと義姉の顔を思い浮かべる。
 彼女はなんでもできて本当にすごいなとシルヴィアは渡された箱を抱きしめる。

「ありがとう、ございます」

 リヒトの世話で忙しいはずなのに、わざわざこれを作って届けてくれたのだろうかと思うと急にベルに会いたくなった。
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