公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「ちょっと、すっきりしました」
ありがとうございます、と言ったシルヴィアにベロニカは温かいスープと小さなサンドイッチを差し出す。
「美味しい」
ほっとした表情を浮かべたシルヴィアは、
「どうして、ベロニカお姉様は私にこんなによくしてくださるのですか?」
ベロニカにそう尋ねる。
「そうですねぇ、少し似ているからかもしれません。シルさんが、昔の私に」
「……お姉様に?」
シルヴィアの問いかけに頷いたベロニカは猫のような金色の瞳を瞬かせ、
「どれだけ頑張ってアピールしても伯爵にはいつも子ども扱いされてあしらわれてましたし、名前も呼んでいただけませんでしたし」
呪われ姫と呼ばれていた頃、離宮で伯爵と過ごした日々を思い浮かべる。
「昔、伯爵に"結婚しないんですか?"って聞いたら、俺の顔目当てで寄ってくる女に興味ないです。あと実家金持ちと見た目だけ美人は生活水準落とせない上に浪費多いから、借金背負いまくってる貧乏伯爵家のうちじゃ無理。俺が今欲しいのは妻じゃなくて優秀な従業員です、なーんて言われたこともありますね」
「うわぁ、いいそう」
シルヴィアは伯爵の口調を真似をするベロニカを見てクスクス笑ったあと、
「……もしかして、お姉様いいとこの家出身だったりします?」
ベロニカにそう尋ねる。
ベロニカは平民出身だと聞いているが、所作はとても洗練されていて綺麗だし、ベルが母親とベロニカからマナーや教養を習ったのだと言っていた。
小さな頃から家庭教師に教わり所作を身につけてきたシルヴィアには分かる。ヒトに教えられるレベルで美しい所作は一朝一夕で身につくものではない、と。
「大した事ありませんよ。父親がちょっと有名人だったというだけで」
王家出身です、とはさすがに言えないベロニカはよくある話ですよとさらっと流し、
「シルさんくらいの頃の私はずっと伯爵の背中を追いかけていた気がします」
だから応援したくなるのかもしれません、と話を続ける。
「私は何も持っていなかった。伯爵が好きだというこの気持ち以外は」
伯爵の視界に入りたくて。
興味を引きたくて。
飽きられたくなくて。
試行錯誤し続けて伯爵と時間を重ねてきた日々は愛おしくて、手放しがたい。
「そんな私に伯爵は応えてくれた。だから私は自分の生涯をかけて伯爵を振り回すと決めています」
そう言って微笑むベロニカは誰よりも美しく、楽しそうだ。
「シルさんは、ハルさんを嫌いになってしまいましたか?」
そう問われたシルヴィアはブンブンと首を振る。
これくらいで諦められる気持ちなら、きっと家を出たりせず大人しくどこぞの貴族にでも嫁いでいただろう。
「だというのなら、あなたはあなたらしく、あなたの持てる全部で勝負をしていいのです」
ベルを真似なくても。
上手く庶民生活に馴染めなくても。
シルヴィアらしくしていいのだとベロニカは諭す。
「失敗する、ということは改善の余地があるという事です」
分からない事はこれから知っていけばいいのですから、と言われたシルヴィアの瞳から焦りが消える。
「ハイ」
私らしく、その言葉を噛み締めて素直に頷いたシルヴィアは、
「じゃあ、そのためにもまずは今日の午後を乗り切ります!」
とりあえずごはんを食べるところから、と手を動かしはじめたシルヴィアの目にはもう涙は浮かんでいなかった。
ありがとうございます、と言ったシルヴィアにベロニカは温かいスープと小さなサンドイッチを差し出す。
「美味しい」
ほっとした表情を浮かべたシルヴィアは、
「どうして、ベロニカお姉様は私にこんなによくしてくださるのですか?」
ベロニカにそう尋ねる。
「そうですねぇ、少し似ているからかもしれません。シルさんが、昔の私に」
「……お姉様に?」
シルヴィアの問いかけに頷いたベロニカは猫のような金色の瞳を瞬かせ、
「どれだけ頑張ってアピールしても伯爵にはいつも子ども扱いされてあしらわれてましたし、名前も呼んでいただけませんでしたし」
呪われ姫と呼ばれていた頃、離宮で伯爵と過ごした日々を思い浮かべる。
「昔、伯爵に"結婚しないんですか?"って聞いたら、俺の顔目当てで寄ってくる女に興味ないです。あと実家金持ちと見た目だけ美人は生活水準落とせない上に浪費多いから、借金背負いまくってる貧乏伯爵家のうちじゃ無理。俺が今欲しいのは妻じゃなくて優秀な従業員です、なーんて言われたこともありますね」
「うわぁ、いいそう」
シルヴィアは伯爵の口調を真似をするベロニカを見てクスクス笑ったあと、
「……もしかして、お姉様いいとこの家出身だったりします?」
ベロニカにそう尋ねる。
ベロニカは平民出身だと聞いているが、所作はとても洗練されていて綺麗だし、ベルが母親とベロニカからマナーや教養を習ったのだと言っていた。
小さな頃から家庭教師に教わり所作を身につけてきたシルヴィアには分かる。ヒトに教えられるレベルで美しい所作は一朝一夕で身につくものではない、と。
「大した事ありませんよ。父親がちょっと有名人だったというだけで」
王家出身です、とはさすがに言えないベロニカはよくある話ですよとさらっと流し、
「シルさんくらいの頃の私はずっと伯爵の背中を追いかけていた気がします」
だから応援したくなるのかもしれません、と話を続ける。
「私は何も持っていなかった。伯爵が好きだというこの気持ち以外は」
伯爵の視界に入りたくて。
興味を引きたくて。
飽きられたくなくて。
試行錯誤し続けて伯爵と時間を重ねてきた日々は愛おしくて、手放しがたい。
「そんな私に伯爵は応えてくれた。だから私は自分の生涯をかけて伯爵を振り回すと決めています」
そう言って微笑むベロニカは誰よりも美しく、楽しそうだ。
「シルさんは、ハルさんを嫌いになってしまいましたか?」
そう問われたシルヴィアはブンブンと首を振る。
これくらいで諦められる気持ちなら、きっと家を出たりせず大人しくどこぞの貴族にでも嫁いでいただろう。
「だというのなら、あなたはあなたらしく、あなたの持てる全部で勝負をしていいのです」
ベルを真似なくても。
上手く庶民生活に馴染めなくても。
シルヴィアらしくしていいのだとベロニカは諭す。
「失敗する、ということは改善の余地があるという事です」
分からない事はこれから知っていけばいいのですから、と言われたシルヴィアの瞳から焦りが消える。
「ハイ」
私らしく、その言葉を噛み締めて素直に頷いたシルヴィアは、
「じゃあ、そのためにもまずは今日の午後を乗り切ります!」
とりあえずごはんを食べるところから、と手を動かしはじめたシルヴィアの目にはもう涙は浮かんでいなかった。