公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
その5.公爵令嬢と改善策。
ひたすら書類と睨めっこをしていたハルの集中は、
「ハル君、今日のおやつなーにー?」
という職場の先輩、レイン・モリンズの声かけで途切れた。
ひょいっと指が伸びて来て、ハルの目の前に山積みになっているエナジーバーを摘んで食べる。
「うわぁ、今日もハイクオリティ。ドライフルーツとナッツゴロゴロだ」
美味しいと絶賛したレインは、
「昨日はマカロンで今日はクッキー? 明日のおやつはなんだろう」
と遠慮なくもぐもぐ食べる。
そんなレインに箱ごとお菓子を押しやったハルは、
「エナジーバーです。良ければどうぞ。今日ルキ様午後休だって忘れてて、作りすぎちゃったので」
姉のベルに届けてもらうつもりだったが、午前中外回りだったルキと入れ違いになってしまい渡せなかったのだと説明する。
「いいの? じゃ、遠慮なく。うちの奥さんハル君のお菓子のファンなんだよー」
うっかり2人で食べ過ぎそうと笑いながら受け取ったレインは、
「次はラムレーズンのミルフィーユサンドがいいなぁ。ラム酒ガッツリ効かせたパウンドケーキも美味しかったけど」
ちゃっかりリクエストをする。
「残念ですけど、しばらく洋酒入りのお菓子の生産予定はありません」
「えーなんで?」
「……苦手なので」
以前背伸びをして無理して食べていたシルヴィアの事を思い出し、ハルはクスリと笑みをもらす。
「アレ? ハル君お酒苦手じゃないよね?」
「姉が一滴も飲めないんです。お菓子に入ってるのでダウンしちゃうくらい」
ベルに渡す分はついでだが嘘ではない。
それにシルヴィアが苦手なモノを作ってもご褒美にも慰めにもならないしなとハルは心の中で付け足す。
「ああ、なるほど! これお姉さん用だったんだっけ?」
納得したように頷いたレインはそれ以上深掘りせず、
「もし転職するならうちのパティシエに雇うよ」
と軽口を叩く。
モリンズ侯爵家嫡男であるレインはルキの古くからの友人で、人望も厚く、とても頼れる先輩なのだけど、この人の表面に騙されてはいけないとハルは経験上知っている。
「いいですね、それ。僕お菓子づくり好きなんです」
書類仕事より、と笑顔で返したハルは、
「転職真剣に考えようかなー。先輩に騙されたり泣き脅されたりして婚活パーティーの生贄に差し出されることもなくなりそうですし」
低めの声で淡々と先月は特に大変でしたとそう言った。
18歳で外交省に就職して早四年。一人で大事な顧客の応対をしたり、重要案件にも関われるようになってきた。
元々華やかな場や大人数で騒ぐより、一人で静かにのんびり過ごすほうが好きだったハルには、就職後特に浮いた話はなかった。
人当たりの良さと処世術には自信があったし、今は仕事を覚えたくてと言えばそうトラブルに巻き込まれる事もなかったのだが。
働きはじめて2年経ち、ちょっと落ち着いてきた頃から顔つなぎも大事だからと尤もらしい事を言ってレインに様々な夜会やパーティーに連れて行かれるようになった。
実際そのおかげでハルにとっては雲の上の人だった方達と知り合えたし、仕事面で有利にはたらくことも多かったけれど。
反面、独り身であるハルは様々な令嬢達かれロックオンされる羽目になった。
先代の庶子とはいえ、外交省に勤務している伯爵家出身の次男。
兄は変わり者と名高く付け入る隙のないストラル伯爵。
義兄はブルーノ公爵で姉は人気急上昇中の月の番犬商会会長。
その上ハル本人の見目は麗しく、気が利き人当たりもよく、年上に可愛いがられる性格。
実際、外交省で非常に目立つルキとレインから可愛がられており、彼らのチームに入れるほど優秀なら今後の出世間違いなし。
なんて、余計なことを風潮しまくってくれた先輩は侯爵家の人間なので、"俺の顔を立てると思って"なんて言われたらハルに断る術はない。
様々なご令嬢達を宥めつつ、最短3日長くて1月ほどかけてあの手この手で交際しては破局することを繰り返し続けているハルは正直夜会に出ることすらうんざりしていた。
「ハル君、今日のおやつなーにー?」
という職場の先輩、レイン・モリンズの声かけで途切れた。
ひょいっと指が伸びて来て、ハルの目の前に山積みになっているエナジーバーを摘んで食べる。
「うわぁ、今日もハイクオリティ。ドライフルーツとナッツゴロゴロだ」
美味しいと絶賛したレインは、
「昨日はマカロンで今日はクッキー? 明日のおやつはなんだろう」
と遠慮なくもぐもぐ食べる。
そんなレインに箱ごとお菓子を押しやったハルは、
「エナジーバーです。良ければどうぞ。今日ルキ様午後休だって忘れてて、作りすぎちゃったので」
姉のベルに届けてもらうつもりだったが、午前中外回りだったルキと入れ違いになってしまい渡せなかったのだと説明する。
「いいの? じゃ、遠慮なく。うちの奥さんハル君のお菓子のファンなんだよー」
うっかり2人で食べ過ぎそうと笑いながら受け取ったレインは、
「次はラムレーズンのミルフィーユサンドがいいなぁ。ラム酒ガッツリ効かせたパウンドケーキも美味しかったけど」
ちゃっかりリクエストをする。
「残念ですけど、しばらく洋酒入りのお菓子の生産予定はありません」
「えーなんで?」
「……苦手なので」
以前背伸びをして無理して食べていたシルヴィアの事を思い出し、ハルはクスリと笑みをもらす。
「アレ? ハル君お酒苦手じゃないよね?」
「姉が一滴も飲めないんです。お菓子に入ってるのでダウンしちゃうくらい」
ベルに渡す分はついでだが嘘ではない。
それにシルヴィアが苦手なモノを作ってもご褒美にも慰めにもならないしなとハルは心の中で付け足す。
「ああ、なるほど! これお姉さん用だったんだっけ?」
納得したように頷いたレインはそれ以上深掘りせず、
「もし転職するならうちのパティシエに雇うよ」
と軽口を叩く。
モリンズ侯爵家嫡男であるレインはルキの古くからの友人で、人望も厚く、とても頼れる先輩なのだけど、この人の表面に騙されてはいけないとハルは経験上知っている。
「いいですね、それ。僕お菓子づくり好きなんです」
書類仕事より、と笑顔で返したハルは、
「転職真剣に考えようかなー。先輩に騙されたり泣き脅されたりして婚活パーティーの生贄に差し出されることもなくなりそうですし」
低めの声で淡々と先月は特に大変でしたとそう言った。
18歳で外交省に就職して早四年。一人で大事な顧客の応対をしたり、重要案件にも関われるようになってきた。
元々華やかな場や大人数で騒ぐより、一人で静かにのんびり過ごすほうが好きだったハルには、就職後特に浮いた話はなかった。
人当たりの良さと処世術には自信があったし、今は仕事を覚えたくてと言えばそうトラブルに巻き込まれる事もなかったのだが。
働きはじめて2年経ち、ちょっと落ち着いてきた頃から顔つなぎも大事だからと尤もらしい事を言ってレインに様々な夜会やパーティーに連れて行かれるようになった。
実際そのおかげでハルにとっては雲の上の人だった方達と知り合えたし、仕事面で有利にはたらくことも多かったけれど。
反面、独り身であるハルは様々な令嬢達かれロックオンされる羽目になった。
先代の庶子とはいえ、外交省に勤務している伯爵家出身の次男。
兄は変わり者と名高く付け入る隙のないストラル伯爵。
義兄はブルーノ公爵で姉は人気急上昇中の月の番犬商会会長。
その上ハル本人の見目は麗しく、気が利き人当たりもよく、年上に可愛いがられる性格。
実際、外交省で非常に目立つルキとレインから可愛がられており、彼らのチームに入れるほど優秀なら今後の出世間違いなし。
なんて、余計なことを風潮しまくってくれた先輩は侯爵家の人間なので、"俺の顔を立てると思って"なんて言われたらハルに断る術はない。
様々なご令嬢達を宥めつつ、最短3日長くて1月ほどかけてあの手この手で交際しては破局することを繰り返し続けているハルは正直夜会に出ることすらうんざりしていた。