公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「それにしても、レイン様よく止めませんでしたね」
ルキの不在で一番割を食う羽目になるのはレインだ。
だが彼は止めるどころか前例のない事態を後押しして、こうしてフォローもしている。
おかげで他国の王族の留学を受け入れている状態でも、今のところ大きな問題は起きてはいない。
「これも一つの持てる者の義務ってやつだよ」
レインはエナジーバーを口に放り込んで、
「いい機会だから、前例を作っておきたくてね」
これから先のために、と笑う。
「公爵家のような影響力のある家門がいいモデルケースを示れば、これから先組織改革しやすくなるし、働く人間の選択肢を増やせるだろ?」
上が休まないと下は休み辛いんだよ? とレインは現状を指摘する。
「離職率の改善や女性の活躍推進の分野の後押しは、労働力の確保に繋がっていく。そういったの諸々含めて、最終的に国の発展に繋がりそうなことには積極的に貢献するようにしているんだ」
これでも侯爵家の人間だからね、と言ったレインは、
「それに個人的にルキには借りも多々あるし」
まぁルキは貸しだなんて思っていないだろうけどと優しい顔をしていた。
二人の過去は知らないが、きっとルキとレインは今までいい関係を築いてきたのだろうと分かるくらいに。
「ハル君も今のうちに沢山ブルーノ公爵家やモリンズ侯爵家に恩を売っておきなよ。困った時回収できるように、さ」
君のお兄さんはその辺の貸付すっごく上手いよ? と揶揄うように笑うレイン。
彼もいずれ侯爵位を賜る。
レインならいずれ大きな権力を手にしても、それを盾に下々の者を踏み潰したりしないだろうとハルは思う。
「では、一つ可愛い後輩の願いを聞いてくださいますか?」
「なーに? ハル君お困り?」
「僕、レイン先輩の事が好きですよ」
アクアマリンの瞳は真っ直ぐモスグリーンの瞳を見ながら、
「なので、僕はずっと従順な後輩のままでいたいと思います」
にこにこにこにこと人当たりの良さような笑みを浮かべて笑うハルに、
「……ハル君、やっぱりちょっと怒ってるだろ?」
とレインは眉を下げる。
「怒ってたら、こんなこと言いませんよ。大好きな先輩に歯向かうような恩知らずにはなりたくないなぁーっていうのが僕の本音だと言うだけで」
なお笑い続けるハルを見て、レインは大きくため息をついて。
「余計なお世話、手出し無用、ね。本当、ストラル家の人間は悉く変わり者だね」
降参とばかりに両手を上げる。
ハルは伯爵家の次男だ。このままだと彼が爵位を継ぐ事はなく、権力を手にすることはない。
貴族籍に縛るならハルに爵位を持ってもらう方がいい。一番手っ取り早い方法は後継者のいない家に養子に入るか、婿養子として縁組をすること。
ハルの能力を買っているレインとしては、可能なら自分の手の届く範囲でそうなれば、と画策していたのだけれど。
「すみません、爵位にも貴族的な待遇にも興味がないもので。もちろん、ストラル家の人間を動かすための駒になる気も」
ハルははっきりと断りを入れる。
「……こんなにはっきりと断られるとは思わなかったな」
ハルはきっとずっと前から自分の意図には気づいていた。
それでも断らずに夜会に出たり、風除けをやったり、有力貴族の令嬢達とお付き合いしてみたりしていたから、どこかでハルも天秤にかけちょうどいい落とし所を探しているのだと思っていたレインとしては意外な返答だった。
「のっぴきならない事情ができまして」
ご期待に添えず申し訳ありません、と肩を竦めるハル。
きっとこれから先は、ハルがこちらの勧めに乗ることはない。
それならそれで仕方ないかと諦めたレインは、
「なーにー? 好きな子でもできた?」
と揶揄うようにハルに尋ねる。
「少し違いますけど」
どこまで話そうか、と首を傾げたハルの脳裏に初めてシルヴィアを見かけた日の事が蘇る。
当時13歳だった彼女はエプロンドレスを着ていて、ベロニカと共に正座をさせられていた。
怒っている、というか心底呆れている兄に臆することなく手を上げて、嬉々としてさも名案とばかりに改善策を提案していたシルヴィア。
その時少しばかり気落ちしていたハルにとって、見ているこちらまで楽しくなりそうなその眩しい笑顔は沈んだ心を和ませるものであった。
「そうですねぇ。僕にとっての最優先事項、ですかね」
期間限定のと内心で付け足し、
「午後の準備してきます。あと、明日のおやつはフロランタンです」
材料買わなきゃなと、つぶやいて、
「そんなわけで、定時で上がります。仕事持ち帰るので、資料の持ち出し許可をお願いします」
そう言って立ち上がると、会議の準備をしに執務室を後にした。
ルキの不在で一番割を食う羽目になるのはレインだ。
だが彼は止めるどころか前例のない事態を後押しして、こうしてフォローもしている。
おかげで他国の王族の留学を受け入れている状態でも、今のところ大きな問題は起きてはいない。
「これも一つの持てる者の義務ってやつだよ」
レインはエナジーバーを口に放り込んで、
「いい機会だから、前例を作っておきたくてね」
これから先のために、と笑う。
「公爵家のような影響力のある家門がいいモデルケースを示れば、これから先組織改革しやすくなるし、働く人間の選択肢を増やせるだろ?」
上が休まないと下は休み辛いんだよ? とレインは現状を指摘する。
「離職率の改善や女性の活躍推進の分野の後押しは、労働力の確保に繋がっていく。そういったの諸々含めて、最終的に国の発展に繋がりそうなことには積極的に貢献するようにしているんだ」
これでも侯爵家の人間だからね、と言ったレインは、
「それに個人的にルキには借りも多々あるし」
まぁルキは貸しだなんて思っていないだろうけどと優しい顔をしていた。
二人の過去は知らないが、きっとルキとレインは今までいい関係を築いてきたのだろうと分かるくらいに。
「ハル君も今のうちに沢山ブルーノ公爵家やモリンズ侯爵家に恩を売っておきなよ。困った時回収できるように、さ」
君のお兄さんはその辺の貸付すっごく上手いよ? と揶揄うように笑うレイン。
彼もいずれ侯爵位を賜る。
レインならいずれ大きな権力を手にしても、それを盾に下々の者を踏み潰したりしないだろうとハルは思う。
「では、一つ可愛い後輩の願いを聞いてくださいますか?」
「なーに? ハル君お困り?」
「僕、レイン先輩の事が好きですよ」
アクアマリンの瞳は真っ直ぐモスグリーンの瞳を見ながら、
「なので、僕はずっと従順な後輩のままでいたいと思います」
にこにこにこにこと人当たりの良さような笑みを浮かべて笑うハルに、
「……ハル君、やっぱりちょっと怒ってるだろ?」
とレインは眉を下げる。
「怒ってたら、こんなこと言いませんよ。大好きな先輩に歯向かうような恩知らずにはなりたくないなぁーっていうのが僕の本音だと言うだけで」
なお笑い続けるハルを見て、レインは大きくため息をついて。
「余計なお世話、手出し無用、ね。本当、ストラル家の人間は悉く変わり者だね」
降参とばかりに両手を上げる。
ハルは伯爵家の次男だ。このままだと彼が爵位を継ぐ事はなく、権力を手にすることはない。
貴族籍に縛るならハルに爵位を持ってもらう方がいい。一番手っ取り早い方法は後継者のいない家に養子に入るか、婿養子として縁組をすること。
ハルの能力を買っているレインとしては、可能なら自分の手の届く範囲でそうなれば、と画策していたのだけれど。
「すみません、爵位にも貴族的な待遇にも興味がないもので。もちろん、ストラル家の人間を動かすための駒になる気も」
ハルははっきりと断りを入れる。
「……こんなにはっきりと断られるとは思わなかったな」
ハルはきっとずっと前から自分の意図には気づいていた。
それでも断らずに夜会に出たり、風除けをやったり、有力貴族の令嬢達とお付き合いしてみたりしていたから、どこかでハルも天秤にかけちょうどいい落とし所を探しているのだと思っていたレインとしては意外な返答だった。
「のっぴきならない事情ができまして」
ご期待に添えず申し訳ありません、と肩を竦めるハル。
きっとこれから先は、ハルがこちらの勧めに乗ることはない。
それならそれで仕方ないかと諦めたレインは、
「なーにー? 好きな子でもできた?」
と揶揄うようにハルに尋ねる。
「少し違いますけど」
どこまで話そうか、と首を傾げたハルの脳裏に初めてシルヴィアを見かけた日の事が蘇る。
当時13歳だった彼女はエプロンドレスを着ていて、ベロニカと共に正座をさせられていた。
怒っている、というか心底呆れている兄に臆することなく手を上げて、嬉々としてさも名案とばかりに改善策を提案していたシルヴィア。
その時少しばかり気落ちしていたハルにとって、見ているこちらまで楽しくなりそうなその眩しい笑顔は沈んだ心を和ませるものであった。
「そうですねぇ。僕にとっての最優先事項、ですかね」
期間限定のと内心で付け足し、
「午後の準備してきます。あと、明日のおやつはフロランタンです」
材料買わなきゃなと、つぶやいて、
「そんなわけで、定時で上がります。仕事持ち帰るので、資料の持ち出し許可をお願いします」
そう言って立ち上がると、会議の準備をしに執務室を後にした。