公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
 ありのままの自分で勝負していいのだとベロニカに言われてから考えてみた。
 私らしさ、ってなんだろうと。
 帰宅したシルヴィアは部屋の中をぐるりと見渡す。
 未開封で山積みになっているダンボール箱。
 知らないモノで埋め尽くされたキッチン。
 寝づらい寝具。
 可愛くないお部屋。
 全部、全部、用意されたそれは全く以って自分らしくない。

「大人しく相手に合わせるなんて、私らしいはずもなかったわ」

 だって私生まれも育ちもお嬢様なんだものとシルヴィアは自分の生い立ちを振り返る。

「生まれも育った環境も、今更変えようがないわ」

 では、失敗した原因と現状を改善する方法は? と考えながらシルヴィアはハルとの契約条件を紐解く。

「この結婚に、愛はない」

 契約結婚だからと自分に言い聞かせたシルヴィアは突きつけられた現実と向き合う。
 ハルから出されてシルヴィアが受け入れた条件は、大きく5つ。
『結婚している事は不用意に言わないこと』
『平民として生活すること』
『家賃生活費折半。自分の事は自分で行う』
『干渉せず、自分優先。基本的に自宅ではハルを放って置くこと』
『契約期間はどちらかに好きな人ができるまで』

「最後のひとつについてはすでに破っているようなものだけど」

 シルヴィアの好きな人はずっと変わらない。
 13歳を過ぎ、春が近づいてきた夜にひとりで膝を抱えて泣いていた自分に彼が声をかけてくれたあの日から。
 シルヴィアは自分が持っているモノを一つずつ確認し、状況を整理する。
 ベロニカにもらったエナジーバーを一つ食べたシルヴィアは時計を見上げ、

「まだ、間に合うわね」

 よし、と気合いを入れて上着を羽織ると鍵をかけて外出した。
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