公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「あんなに小さかったのにもうお嫁さんに行っちゃうのか。僕も歳をとるわけだ」
初めて彼女に声をかけた時からシルヴィアはハルにとって放ってはおけない可愛い妹のような存在だった。
とはいえシルヴィアは公爵令嬢であり、本来たかが伯爵家の次男が気安く話しかけることすら許されない存在だというのもハルは理解していた。
それが許されたのは彼女が姉の義妹になったから。ただそれだけの繋がりで。
本来の正しい関係に戻るだけなのだ。自分が彼女の人生から消えたとしても、大した影響はない。
明日にでも早々にルキに返却しようと、とりあえず婚姻届の入った封筒をしまったハルは、
「なんか、気が抜けた。ごはん作るの、めんどい」
捨てるのもったいないし、とシルヴィアが置いていったお菓子を食べる。
夕食を適当に済ませても許されるのが一人暮らしのいいところである。実家だったら主にベロニカに怒られるし、食事当番が容赦なく回ってくる。
明日から普通に残業できそう、と持ち帰り分の資料を広げた時だった。
ガチャっと鍵が開く音がして、足音と共にリビングに通じるドアが開く。
「ただいま。って、あーーー! ハルさん、私のおやつ勝手に食べたぁ!!」
せっかくベロニカお姉様にもらったのにーー!! と絶叫するシルヴィア。
「みゃぁーー!! 明日持って行こうと思ってたのにっ! 全部食べちゃうなんて、どれだけお腹空いてたんですか!!」
これすっごく美味しいのにっ、どこにも売ってないんですよ! と涙目で怒るシルヴィアの猛抗議を聞きながら、あっけに取られたアクアマリンの瞳はゆっくりと瞬く。
「なんで、いるの?」
「なんで、って自分のうちなんだから帰って来るに決まってるじゃないですか?」
ちょっとお出かけしてただけです! とシルヴィアは頬を膨らませる。
「いや、だって荷物」
ないからてっきり公爵家に戻ったものだとと言ったハルに、ああと手を打ったシルヴィアは、
「お隣借りました」
さっき不動産屋さんで契約してきましたと鍵を見せる。
「は? え、待って。どういう事?」
「だから、荷物入らないからお隣借りたの」
ちょうどお隣空室だったからとシルヴィアは隣を指差す。
確かに隣は空室で、物件としては少し古く大通りから外れているここは借り手がつかなくて困っていると大家さんが言っていたけれど。
「えーっと、つまりシルちゃんは隣に住むって事だろうか?」
事態が飲み込めず質問を続けるハルを見ながら、シルヴィアは何故かとても嬉しそうな顔をする。
「ううん、住むのはこっちよ。隣はクローゼット代わりに借りました」
とシルヴィアはさらっとハルの常識の斜め上の回答を返す。
アパート一室クローゼットって、と驚くハルに、
「考えたんだけど、平民になるからといって無理に枠にハマる必要もないのかなって」
とシルヴィアは公正証書に起こした二人の契約条件をハルの前に差し出し、
「とりあえず今使わないモノは隣をレンタルスペースとして借りて委託業者に管理をお任せすることにしたの」
契約条件を指さす。
『平民として生活すること』
と書かれてそれを示しながら。
「平民って要は、貴族籍に身を置かない人の事でしょう? 貴族籍から除名されたところで私がお金持ちのお嬢様ってことには変わりないなって」
だからできないことは対価を払ってできる人を雇う事にしたのとシルヴィアは告げる。
確かにハウスキーパーの雇用やレンタルスペースの利用は貴族に限った特権ではない。裕福層では財産管理等も委託するのが一般的なので、契約条件を守っているしシルヴィアの主張も間違いとは言えない。
初めて彼女に声をかけた時からシルヴィアはハルにとって放ってはおけない可愛い妹のような存在だった。
とはいえシルヴィアは公爵令嬢であり、本来たかが伯爵家の次男が気安く話しかけることすら許されない存在だというのもハルは理解していた。
それが許されたのは彼女が姉の義妹になったから。ただそれだけの繋がりで。
本来の正しい関係に戻るだけなのだ。自分が彼女の人生から消えたとしても、大した影響はない。
明日にでも早々にルキに返却しようと、とりあえず婚姻届の入った封筒をしまったハルは、
「なんか、気が抜けた。ごはん作るの、めんどい」
捨てるのもったいないし、とシルヴィアが置いていったお菓子を食べる。
夕食を適当に済ませても許されるのが一人暮らしのいいところである。実家だったら主にベロニカに怒られるし、食事当番が容赦なく回ってくる。
明日から普通に残業できそう、と持ち帰り分の資料を広げた時だった。
ガチャっと鍵が開く音がして、足音と共にリビングに通じるドアが開く。
「ただいま。って、あーーー! ハルさん、私のおやつ勝手に食べたぁ!!」
せっかくベロニカお姉様にもらったのにーー!! と絶叫するシルヴィア。
「みゃぁーー!! 明日持って行こうと思ってたのにっ! 全部食べちゃうなんて、どれだけお腹空いてたんですか!!」
これすっごく美味しいのにっ、どこにも売ってないんですよ! と涙目で怒るシルヴィアの猛抗議を聞きながら、あっけに取られたアクアマリンの瞳はゆっくりと瞬く。
「なんで、いるの?」
「なんで、って自分のうちなんだから帰って来るに決まってるじゃないですか?」
ちょっとお出かけしてただけです! とシルヴィアは頬を膨らませる。
「いや、だって荷物」
ないからてっきり公爵家に戻ったものだとと言ったハルに、ああと手を打ったシルヴィアは、
「お隣借りました」
さっき不動産屋さんで契約してきましたと鍵を見せる。
「は? え、待って。どういう事?」
「だから、荷物入らないからお隣借りたの」
ちょうどお隣空室だったからとシルヴィアは隣を指差す。
確かに隣は空室で、物件としては少し古く大通りから外れているここは借り手がつかなくて困っていると大家さんが言っていたけれど。
「えーっと、つまりシルちゃんは隣に住むって事だろうか?」
事態が飲み込めず質問を続けるハルを見ながら、シルヴィアは何故かとても嬉しそうな顔をする。
「ううん、住むのはこっちよ。隣はクローゼット代わりに借りました」
とシルヴィアはさらっとハルの常識の斜め上の回答を返す。
アパート一室クローゼットって、と驚くハルに、
「考えたんだけど、平民になるからといって無理に枠にハマる必要もないのかなって」
とシルヴィアは公正証書に起こした二人の契約条件をハルの前に差し出し、
「とりあえず今使わないモノは隣をレンタルスペースとして借りて委託業者に管理をお任せすることにしたの」
契約条件を指さす。
『平民として生活すること』
と書かれてそれを示しながら。
「平民って要は、貴族籍に身を置かない人の事でしょう? 貴族籍から除名されたところで私がお金持ちのお嬢様ってことには変わりないなって」
だからできないことは対価を払ってできる人を雇う事にしたのとシルヴィアは告げる。
確かにハウスキーパーの雇用やレンタルスペースの利用は貴族に限った特権ではない。裕福層では財産管理等も委託するのが一般的なので、契約条件を守っているしシルヴィアの主張も間違いとは言えない。