公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
 軽装のドレスの上から羽織った白衣をはためかせ、シルヴィアは忙しそうにパタパタと走る。

「実験データの集計終わりました。予測値より耐久性が低いですね。素材サンプル出しておきました」

「ああ、助かる」

 テキパキと仕事をこなす様子を見ながら、

「シルヴィア、少しは慣れたか?」

 と伯爵はシルヴィアに声をかける。

「それは、仕事の方ですか? それとも、私生活?」

 仕事中に伯爵が雑談なんて珍しいなと思いつつ、シルヴィアは尋ね返す。

「両方、だな」

 先週のシルヴィアは散々だったしなと揶揄うような視線を送ってくる。

「うぅ、そ、それは言わないでくださいっ」

 連日遅刻スレスレの出勤だったし、家事はまともにできず外食多めだし、せっかくクリーニングに出した服も管理が悪くて結局しわくちゃにしてしまったし、とシルヴィアは自身の生活を振り返り顔を赤らめる。

「先週の死にそうな顔に比べたら随分マシだろ」

 ちゃんと眠れて食べられてる間は大丈夫、と伯爵はシルヴィアの頭をポンポンっと軽く叩く。

「……伯爵って本当に面倒見いいですよね」

 そんなにお人好しだと、そのうち騙されて大損しないか心配ですとシルヴィアは頬を膨らませる。
 ベルがいなくなってからシルヴィアがストラル社を訪れたのは、ベルに繋がる方法を探すためだった。
 あの時のシルヴィアはベルが出て行った詳しい経緯も公爵家がベルやストラル伯爵家に何をしたのかも知らなかった。
 知らなかったとはいえ、我ながら酷い行いだったと今なら思う。
 どうしてベルに会わせてくれないのか、と何で、何でを繰り返し、癇癪を起こして伯爵を責めるようなこともした。
 本当に自分の事しか考えていなかったし、甘えるのも大概にしろ、と突き放されても文句の言えない状況だったのに。
 
『ベルの行方は教えられないが、好きなだけストラル社内を探って構わない』

 と伯爵はシルヴィアに居場所を作ってくれたのだった。
 ブルーノ公爵領で大災害が起きた時だって、

『私の未来に投資してくれませんか』

 なんて、なんの保証もない売り込みに伯爵は二つ返事で頷いて助けてくれた。
 伯爵が助けてくれなければ、きっと公爵領はもっと悲惨な状態だっただろう。
 伯爵には感謝してもしきれない。
< 40 / 83 >

この作品をシェア

pagetop