公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「……その言い方だと、まるでハルといると不幸になるみたいに聞こえるな」
「別にそんなこと言ってませんよー。僕はただ」
「ハルはベルとは違う身の守り方を選んだんだな」
驚いたようにこちらを見てきたアクアマリンの瞳に優しく笑ったルキは、
「木を隠すなら森の中。とはいえ、狙って1位を取るよりも、狙って毎回きっちり平均値を叩き出す方がずっと難しいと思うぞ」
と苦笑する。
『僕きょうだいの中で一番デキが悪いんです』
度々ハルは自分のことをそう話す。
兄であるキース・ストラル伯爵は在学中に国の研究機関の内定が決まるほど博識で。
姉であるベルは、在学中特待生主席をキープし続けた才女。
だというのに、学生時代のハルには目立った功績がなかった。
国家公務員最難関の外交省の採用試験に合格し、今もなお上司からの期待に応えられるほど優秀なのに、だ。
「公爵家ってそういうのも調べられちゃうんですね。上位者以外の成績って公開されてないはずなのに」
ボロを出した覚えはないんですけど、と肩をすくめたハルは、
「誰かに迷惑をかけたわけでもありませんし、可愛い義弟のささやかなワガママに片目を瞑ってくれないほどルキ様は狭量じゃないでしょう?」
噛みついたりしませんよとにこやかに笑う。
「……差し支えなければ、理由を聞いてもいいか?」
「何か姉さんに言われました?」
「逆に聞くが、ハル大好きなベルが最愛の弟のことを売ると思うか?」
「絶対ありえませんね。姉さん重度のブラコンなんで。天秤に乗せるなんて思考すらないと思いますよ?」
ベルの信頼は絶対的に揺らがない、と言い切るハルに、
「……そういうとこだぞ、ハル」
噛み付く気満々じゃないか、とベルと同じアクアマリンの瞳にシスコンめと笑い返すルキ。
そんなルキを見て、ハルは姉が選んだ義兄をじっと見つめる。
彼は、きっとこれから先もベルの味方だ。
例えば、自分がどこかにいなくなってしまったとしたも。
最愛の姉が一人になることはない。
そう信じられるくらいには、ルキと時間を共にした。
「大したことないですよ。ただ、ささやかで平凡な日常を守りたい、ってだけで」
ぽつり、とハルは目立たないようにしてきた理由を明かす。
「僕は、次男……つまり、ストラル伯爵のスペアなんです」
兄の立場を脅かすほど目立ってはいけない。
でも、兄にもしもの事があった時、兄の代役が務まらないほど愚鈍であってもいけない。少なくとも、兄の息子が成人するまでは。
『……見つからないで』
そんな言葉が耳の奥で、ふと蘇る。
『お願い、だから。……見つからないで、ハル』
か細く、消えてしまいそうな声が、自分に何度もそう懇願する。
顔も碌に覚えていないのに、母親の声だけはどうしようもなく耳に残っていて。
消えてくれない。
『……そうでないと』
その先の言葉は自分の胸にしまい、ハルはいつもの笑顔を作る。
「僕はただの保険です。それ以外に僕が生まれた意味はない」
だから、そうあるべきだと自分で決めたのだ。
「僕は、ストラル伯爵家のスペアです。これから先も、ずっと」
姉には心配しないでと伝えておいてください。
そう言ったハルは空になったランチボックスを片付けて、休憩スペースを後にした。
「別にそんなこと言ってませんよー。僕はただ」
「ハルはベルとは違う身の守り方を選んだんだな」
驚いたようにこちらを見てきたアクアマリンの瞳に優しく笑ったルキは、
「木を隠すなら森の中。とはいえ、狙って1位を取るよりも、狙って毎回きっちり平均値を叩き出す方がずっと難しいと思うぞ」
と苦笑する。
『僕きょうだいの中で一番デキが悪いんです』
度々ハルは自分のことをそう話す。
兄であるキース・ストラル伯爵は在学中に国の研究機関の内定が決まるほど博識で。
姉であるベルは、在学中特待生主席をキープし続けた才女。
だというのに、学生時代のハルには目立った功績がなかった。
国家公務員最難関の外交省の採用試験に合格し、今もなお上司からの期待に応えられるほど優秀なのに、だ。
「公爵家ってそういうのも調べられちゃうんですね。上位者以外の成績って公開されてないはずなのに」
ボロを出した覚えはないんですけど、と肩をすくめたハルは、
「誰かに迷惑をかけたわけでもありませんし、可愛い義弟のささやかなワガママに片目を瞑ってくれないほどルキ様は狭量じゃないでしょう?」
噛みついたりしませんよとにこやかに笑う。
「……差し支えなければ、理由を聞いてもいいか?」
「何か姉さんに言われました?」
「逆に聞くが、ハル大好きなベルが最愛の弟のことを売ると思うか?」
「絶対ありえませんね。姉さん重度のブラコンなんで。天秤に乗せるなんて思考すらないと思いますよ?」
ベルの信頼は絶対的に揺らがない、と言い切るハルに、
「……そういうとこだぞ、ハル」
噛み付く気満々じゃないか、とベルと同じアクアマリンの瞳にシスコンめと笑い返すルキ。
そんなルキを見て、ハルは姉が選んだ義兄をじっと見つめる。
彼は、きっとこれから先もベルの味方だ。
例えば、自分がどこかにいなくなってしまったとしたも。
最愛の姉が一人になることはない。
そう信じられるくらいには、ルキと時間を共にした。
「大したことないですよ。ただ、ささやかで平凡な日常を守りたい、ってだけで」
ぽつり、とハルは目立たないようにしてきた理由を明かす。
「僕は、次男……つまり、ストラル伯爵のスペアなんです」
兄の立場を脅かすほど目立ってはいけない。
でも、兄にもしもの事があった時、兄の代役が務まらないほど愚鈍であってもいけない。少なくとも、兄の息子が成人するまでは。
『……見つからないで』
そんな言葉が耳の奥で、ふと蘇る。
『お願い、だから。……見つからないで、ハル』
か細く、消えてしまいそうな声が、自分に何度もそう懇願する。
顔も碌に覚えていないのに、母親の声だけはどうしようもなく耳に残っていて。
消えてくれない。
『……そうでないと』
その先の言葉は自分の胸にしまい、ハルはいつもの笑顔を作る。
「僕はただの保険です。それ以外に僕が生まれた意味はない」
だから、そうあるべきだと自分で決めたのだ。
「僕は、ストラル伯爵家のスペアです。これから先も、ずっと」
姉には心配しないでと伝えておいてください。
そう言ったハルは空になったランチボックスを片付けて、休憩スペースを後にした。