公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「ベルとお兄様にも来ているの?」

「そうですね、ブルーノ公爵家宛てに一通来ています」

「つまり、これは私個人に来ている、と」

 通常個人に来るはずのない招待状。それは事実上の召集で。
 この時期に公爵令嬢として、夜会への出席を求められている意味を察しシルヴィアの顔が曇る。
 学校に行かなければ。
 物理的に距離を置けば。
 王太子(あの人)から逃れられると思ったのに。
 どうしてあの人達はヒトの平穏を平気で踏み躙るのか、と。
 ギリっと奥歯を噛み締めるシルヴィア。

「お断りしても差し支えはないと思いますよ。ブルーノ公爵家としては参加しますし、強制されるものでもありません。あくまで自由意思による"招待"です」

 ベルは再度シルヴィアの好きにしていいのだと念を押すと、

「本当はルキから渡すべきものなのですが、私が無理を言って代わってもらったのです。ご容赦ください」

 ベルはシルヴィアの側に寄るとこわばった顔をしたシルヴィアをぎゅっと抱きしめる。

「シル様が行きたくないところに、行かせたりしません。私はあなたの義姉(あね)なので」

「……ベル」

 背中をトントンと叩かれてシルヴィアは落ち着きを取り戻す。

「ありがとう」

 どうするか自分で考えてみるともう大丈夫だと告げ、この話はお仕舞いとシルヴィアは受け取った招待状をしまった。
 それを見届けたベルは、

「あーでも卵の殻割り器、案外いいかもしれません!」

 ポンっとわざとらしく手を打って頷く。

「……そこに話が戻るの?」

 そんなに掘り下げなくても、と眉を寄せるシルヴィアに、他国でオシャレに可愛く卵の殼にペイントして飾るイベントを説明したベルは、

「めちゃくちゃ売れる気がする!!」

 ヒット商品の予感! っと真剣に企画を考え始める。

「はっ! これはぜひともお兄様に直談判せねばっ!!」

 思い立ったら即行動、とばかりに出て行きそうなベルに、

「えっと、ベル。道具はいいからどうせなら卵を割るコツを教えて欲しいかなぁーって思うのだけど」

 どうせすぐにはできないし、とシルヴィアは控えめに主張したが。

「え、別にいいですよ。殻入っているくらい大したことないですし。お腹に入れば一緒ですって」

 殻なんて取れば済むし、食べてもカルシウム取れるだけで問題なしとベルは全く気にしない。
 腕時計に視線を落とし、そろそろ時間かと息子の泣きぐずる姿を思い浮かべたベルは、

「たまには公爵家にも帰って来てください。シル様がいないと寂しいです」

 そうシルヴィアに笑いかけて帰って行った。
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