公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
 突然告げられた他課との兼任。

『第一課管理者代行として、俺はそうは思わない』

 はっきりとレインに言われたその言葉を受けて気が重くなる。

「……やり過ぎたかな、ここのところ」

 足元に分かりやすくラインでも引いてくれたらその上を1ミリだってはみ出さずにきちんと歩いてみせるのに。
 極めて"普通"を意識しているはずなのに、たまに加減が分からなくなる。

『要は、バランスの問題なのですよ』

 ふと、ベロニカに言われた言葉が頭に浮かぶ。
 まだハルが幼かった頃、貧乏伯爵家に嫁いで来たとても美しいベロニカ(義姉)
 ベロニカが"普通の人"ではないという事には、彼女が初めて伯爵家にやってきた日に気がついた。
 姉であるベルの語った彼女の姿と自分が実際に見た彼女の姿が全く異なるものだったから。
 無邪気にそれを問いただした子どもの自分にベロニカは少しだけ驚いた顔をして、唇に人差し指をあて、しぃーっと笑うと、

『あらあら、まあまあ! あなたも厄介な体質をお持ちなのですね』

 いつでも相談にのりますよ、と言った。
 まるで、イタズラがバレた子どものように楽しげなその笑顔がとても印象的だったのをよく覚えている。
 ベロニカと暮らし始めてからしばらく経ったある夜に、

『ハルさんは、自分で自分の事を呪ってしまったのですね』

 ぽつり、と彼女にそう言われた事がある。
 ベロニカに決定的な何かを話したわけではなかったし、呪いなんて非科学的なと思ったけれど。
 その言葉はなんだか自分の中でしっくりきて。
 まるで水の中で足を取られて溺れていくような息苦しさに目を伏せた。

『まぁ、でも"呪い"なんてものは、伯爵に言わせればただの"体質"なんですって』

 そんなハルにふふっと楽しげに笑いかけ、優しく頭を撫でてくれたベロニカは、

『いつか、きっとあなたの"呪い"を解いてくれる誰かが現れますよ。私にとって、伯爵がそうであったように』

 だから、大丈夫ですよと言ったベロニカの猫のような金色の瞳に映る自分を見ながら、そんな日は本当に来るだろうか、とぼんやりそんな事を考えていた。
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