公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「はぁー」

 ハルはドアの前で大きなため息を吐く。
 どんなルートで帰ったところで自宅には辿り着いてしまう。
 同居中の現在、自室以外はシルヴィアの目に触れる可能性があるわけで。
 気を抜くなんて、できなくて。
 さて、いつも通りに笑わないと。
 自分にそう言い聞かせたハルは、ガチャっと、控えな音を立てドアを開ける。

「ただい」

「ハルさん!! 見てみてーーー!!」

 ま、をハルがいい終わるより早く、パタパタパタっと勢いよく玄関に飛び出してきたシルヴィアは、

「卵、とっても綺麗に割れたのっ!!」

 私、天才じゃないかしら!? とドヤ顔で卵の入った器をハルの前に差し出す。

「わぁ、すごい。本当に綺麗に……」

 確かに器の中の卵には殻が入っておらず、黄身もつるんと綺麗な形を保ったままで、今朝までとは雲泥の差……なのだけど。
 シルヴィアの身につけているエプロンが見るも無惨な状態になっている。
 いくらエプロンが衣服の汚れを防ぐためにあると言っても限度があると思いつつそのまま視線を流していくと、

「シルちゃん、この悲惨な状況はなんだろうか?」

 ありとあらゆる器が出し広げられ、卵の黄身と白身でベッタベタになっている床と流し台が目に入った。
 というかこの大量の卵は一体!? とシルヴィアのほうを見れば。

「練習したくてお店に残ってた卵ありったけ買い付けたの。養鶏場はダメってベルが言うから」

 夕方残ってる分なら迷惑にならないと思ってとシルヴィアは主張するが、仕事帰りに買い物に行く人間からしたら非常に迷惑だっただろうなとハルは誰とはしれないご近所の皆さまに心から詫びた。

 とりあえず片付けが先かな、と荷物を置いたハルは掃除道具を手に取る。

「あ、お片付けなら自分で」

「いいよ。2人でやった方が早いし、ついでに掃除の仕方教えるから」

 僕は君の家庭教師でしょ、と卵の入った器を取り上げるととりあえず無事そうなテーブルに置いた。
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