公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
その8.公爵令嬢とダンスレッスン。
前回のまとめ。
どんなに不器用でも割り続ければ卵もたまには綺麗に割れるらしい。
という、意外とスポ根なシルヴィアに感化されたわけではないけれど。
「引き受けてくれる気になったんだ」
「ご期待に添えるかは分かりませんけれど」
ハルはレインから打診された他課の業務との兼任について承諾することにした。
「イスランの情報はもう頭に入ってるよね?」
頷くハルにニコッと笑ったレインはハルに書類を渡し、
「じゃあ、まずは顔出しにいっておいで」
そう言ってハルを今回の事案の担当課へと送り出した。
イスラン王国周りの全てを担当している第3課。
カルロス王太子がこの国に留学するために必要な身の回りの調整と学生生活を謳歌するにあたって不自由なく過ごせるよう安全の確保。
そして王太子の腹心であり共に留学中の側近オーキス・マージ侯爵令息の婚姻を披露目する場を用意すること。そちらはカルロス王太子の希望とともにイスラン王国からも正式に依頼されている。
この2点が今回の第3課の主なお仕事である。少なくとも表向き、は。
兼任とはいえ、これからしばらくは第3課での業務が中心になるだろうし、事実上の出向。
進捗状況や第3課の現状についても可能な限り情報を頭に入れてきた。
最初が肝心、と自分に言い聞かせたハルはにこやかな笑みを浮かべ、第3課管理官執務室にご挨拶にやってきた。
「失礼します」
「やぁ、ハルくん」
そう言って気軽に手を上げ声をかけてきた人物を認識したハルは、
「失礼いたしました」
なかったことにしようと、速攻でパタンとドアを閉めようとする。
「ちょ、早い早い。部屋間違ってないから!」
ちょっと席を外してもらってるだけで、と入室を命じたその人物をハルは改めて観察する。
鮮やかな金糸の髪を無造作に一つに束ね、サファイアを思わせる碧眼で不敵に笑うその人は、一見軽薄そうに見えるが、実際のところ全く隙がない。
「ふふ、そんな顔をすると若い頃のキースにそっくりだ」
眉間に皺が寄ってるよ、とトンッと自身の額を差したその人は、そう言って親しげに兄の名を呼んだ。
この人に会うと兄の無愛想と仏頂面は輪をかけて酷くなる。
『お前が来ると大抵碌なことにはならない』
と言って。
「……こんなところで何をなさっているんですか、レグル陛下」
ハルは警戒心を最大限に引き上げてその人にそう話かけた。
「あはは、今日は陛下として来てないの分かってて呼ぶところもキースそっくり」
じっとこちらを探るように見たレグルは、
「私的な場なら昔みたいに"レンさん"って気軽に呼んでくれてもいいのに」
揶揄うようにそういう。
過去アポなしでふらりとストラル伯爵家に何度か押し入って来たことがある自称兄の親友。
尤もその時はこの人の正体を知らなかったし、なんなら今でも知らなくてもよかったのにと思わなくもない雲の上の存在。
「王族に不敬な態度をとって莫大な慰謝料請求されても払えないので、ご容赦ください」
ハルはにこやかな営業スマイルとともに私的な場でもございませんので、と他人行儀な態度を崩さない。
「……君たちきょうだいはどうしてこうも王族を嫌うかなぁ。普通大枚払ってでも王家との繋がりを欲しがるものなのに」
呆れを滲ませながら懐かしそうにクスっと笑みを漏らしたレグルは、
「ホント、ストラル伯爵家の人間はみんな変わり者だな」
君のお兄さんにまた陞爵断られたんだよ、とぼやくようにそういった。
どんなに不器用でも割り続ければ卵もたまには綺麗に割れるらしい。
という、意外とスポ根なシルヴィアに感化されたわけではないけれど。
「引き受けてくれる気になったんだ」
「ご期待に添えるかは分かりませんけれど」
ハルはレインから打診された他課の業務との兼任について承諾することにした。
「イスランの情報はもう頭に入ってるよね?」
頷くハルにニコッと笑ったレインはハルに書類を渡し、
「じゃあ、まずは顔出しにいっておいで」
そう言ってハルを今回の事案の担当課へと送り出した。
イスラン王国周りの全てを担当している第3課。
カルロス王太子がこの国に留学するために必要な身の回りの調整と学生生活を謳歌するにあたって不自由なく過ごせるよう安全の確保。
そして王太子の腹心であり共に留学中の側近オーキス・マージ侯爵令息の婚姻を披露目する場を用意すること。そちらはカルロス王太子の希望とともにイスラン王国からも正式に依頼されている。
この2点が今回の第3課の主なお仕事である。少なくとも表向き、は。
兼任とはいえ、これからしばらくは第3課での業務が中心になるだろうし、事実上の出向。
進捗状況や第3課の現状についても可能な限り情報を頭に入れてきた。
最初が肝心、と自分に言い聞かせたハルはにこやかな笑みを浮かべ、第3課管理官執務室にご挨拶にやってきた。
「失礼します」
「やぁ、ハルくん」
そう言って気軽に手を上げ声をかけてきた人物を認識したハルは、
「失礼いたしました」
なかったことにしようと、速攻でパタンとドアを閉めようとする。
「ちょ、早い早い。部屋間違ってないから!」
ちょっと席を外してもらってるだけで、と入室を命じたその人物をハルは改めて観察する。
鮮やかな金糸の髪を無造作に一つに束ね、サファイアを思わせる碧眼で不敵に笑うその人は、一見軽薄そうに見えるが、実際のところ全く隙がない。
「ふふ、そんな顔をすると若い頃のキースにそっくりだ」
眉間に皺が寄ってるよ、とトンッと自身の額を差したその人は、そう言って親しげに兄の名を呼んだ。
この人に会うと兄の無愛想と仏頂面は輪をかけて酷くなる。
『お前が来ると大抵碌なことにはならない』
と言って。
「……こんなところで何をなさっているんですか、レグル陛下」
ハルは警戒心を最大限に引き上げてその人にそう話かけた。
「あはは、今日は陛下として来てないの分かってて呼ぶところもキースそっくり」
じっとこちらを探るように見たレグルは、
「私的な場なら昔みたいに"レンさん"って気軽に呼んでくれてもいいのに」
揶揄うようにそういう。
過去アポなしでふらりとストラル伯爵家に何度か押し入って来たことがある自称兄の親友。
尤もその時はこの人の正体を知らなかったし、なんなら今でも知らなくてもよかったのにと思わなくもない雲の上の存在。
「王族に不敬な態度をとって莫大な慰謝料請求されても払えないので、ご容赦ください」
ハルはにこやかな営業スマイルとともに私的な場でもございませんので、と他人行儀な態度を崩さない。
「……君たちきょうだいはどうしてこうも王族を嫌うかなぁ。普通大枚払ってでも王家との繋がりを欲しがるものなのに」
呆れを滲ませながら懐かしそうにクスっと笑みを漏らしたレグルは、
「ホント、ストラル伯爵家の人間はみんな変わり者だな」
君のお兄さんにまた陞爵断られたんだよ、とぼやくようにそういった。