公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
表情を変えないハルを見ながら、レグルは淡々と言葉を紡ぐ。
「彼女がナジェリー王国の第二王女エステル・ディ・ナジェリーと懇意にしていることは知っているだろうか?」
「さぁ、存じ上げませんが」
正直に言えば社交的なシルヴィアのことだから海の向こうに権力者のお友達が何人かいそうな気はするけれど。
シルヴィアからそれらしい話を聞いたことはないので、それは彼女にとって知られたくない方の話、なのだろう。
さらっと流したハルに、
「では、ナジェリー王国の王太子殿下が彼女をいたく気に入っていることは?」
レグルはさらに問いを重ねる。
「……いいえ、存じ上げませんが」
イスラン王国の王太子やナジェリー王国第一王女だったアネッサではなくて? と頭の中で疑問符を浮かべるハルに、
「イスランとナジェリーは元々一つの国だった。それが2つに別れた本当の理由は知っているかい?」
レグルは一方的に話を続ける。
ハルが知っているのは歴史として語られている2国間での争いの話。
イスラン、ナジェリーの初代の王はもともと母違いの兄弟であった。
どちらも支配者として申し分なく秀でていて、互いに譲らず派閥争いは最終的に国を二分した。それから何代も支配者が代わり、時間を経て歩み寄った国。
「と、表向きはなっているけれど。そも、件の二人は何故国王の座を譲らなかったのだと思う?」
「腹違いの兄弟の仲が悪くって、なんてどこの国にも」
あるありふれた話。
なんて言おうとしたハルに、
「ぶっぶー不正解」
大きくバッテンを作ってダメ出しをするレグル。
なぜだろう。シルヴィアなら可愛いなぁと和む動作が、いい年した権力者にやられるとイラッとする。
なんて内心で思っていたハルに、
「非常に仲の良い兄弟だったそうだよ。うちと違って」
レグルがそう続ける。
レグルの目は笑っておらず、仄暗い闇が垣間見れた。
が、面倒だったので一切のツッコミを放棄したハルは、
「大変興味深いお話なのですが、無駄に引き延ばすならそろそろ切り上げさせて頂いてもよろしいですか? 午後の業務が滞ってしまいますので」
話すなら要点だけ巻きでお願いします、とにこにこにこっと笑って時計を指した。
「……そういうとこ伯爵夫人にそっくりだよね、キミ」
「義姉に仕込まれましたので」
ああ、そう。
と、塩対応な伯爵弟にため息をついたレグルは椅子から立ち上がり、
「惚れた女が一緒だったんだよ。ほら、妻は仲良く半分こなんてできないでしょ?」
答えを告げる。
「それを踏まえてもう一度私の意向を伝えておこう。私はどちらの国とも友好的でありたいと願っている、と」
平和が一番、と言い残してレグルは執務室から出て行った。
レグルが出て行ってから彼の言葉を熟考すること数秒。
レグルの話を信じるならば、どうやらシルヴィアは権力者2人から王太子妃にと望まれているらしい。
シルヴィアを巡る争い。
今は友好的な2国だが、場合によっては国交に亀裂を入れかねない状態で。
そうなると当然うちの国にも影響があるわけで。
本人には全くその気はないのだが、構図的には権力者二人をたぶらかしたように見えなくもない。
つまり、これは。
「……ヒロインに見せかけた悪女ルート?」
いやいやいや、まさかただの公爵令嬢の婚姻が国を傾けるなんてと否定しつつも。
やばい、思考がシルヴィアの趣味であるロマンス小説に侵されている、とハルは苦笑した。
「彼女がナジェリー王国の第二王女エステル・ディ・ナジェリーと懇意にしていることは知っているだろうか?」
「さぁ、存じ上げませんが」
正直に言えば社交的なシルヴィアのことだから海の向こうに権力者のお友達が何人かいそうな気はするけれど。
シルヴィアからそれらしい話を聞いたことはないので、それは彼女にとって知られたくない方の話、なのだろう。
さらっと流したハルに、
「では、ナジェリー王国の王太子殿下が彼女をいたく気に入っていることは?」
レグルはさらに問いを重ねる。
「……いいえ、存じ上げませんが」
イスラン王国の王太子やナジェリー王国第一王女だったアネッサではなくて? と頭の中で疑問符を浮かべるハルに、
「イスランとナジェリーは元々一つの国だった。それが2つに別れた本当の理由は知っているかい?」
レグルは一方的に話を続ける。
ハルが知っているのは歴史として語られている2国間での争いの話。
イスラン、ナジェリーの初代の王はもともと母違いの兄弟であった。
どちらも支配者として申し分なく秀でていて、互いに譲らず派閥争いは最終的に国を二分した。それから何代も支配者が代わり、時間を経て歩み寄った国。
「と、表向きはなっているけれど。そも、件の二人は何故国王の座を譲らなかったのだと思う?」
「腹違いの兄弟の仲が悪くって、なんてどこの国にも」
あるありふれた話。
なんて言おうとしたハルに、
「ぶっぶー不正解」
大きくバッテンを作ってダメ出しをするレグル。
なぜだろう。シルヴィアなら可愛いなぁと和む動作が、いい年した権力者にやられるとイラッとする。
なんて内心で思っていたハルに、
「非常に仲の良い兄弟だったそうだよ。うちと違って」
レグルがそう続ける。
レグルの目は笑っておらず、仄暗い闇が垣間見れた。
が、面倒だったので一切のツッコミを放棄したハルは、
「大変興味深いお話なのですが、無駄に引き延ばすならそろそろ切り上げさせて頂いてもよろしいですか? 午後の業務が滞ってしまいますので」
話すなら要点だけ巻きでお願いします、とにこにこにこっと笑って時計を指した。
「……そういうとこ伯爵夫人にそっくりだよね、キミ」
「義姉に仕込まれましたので」
ああ、そう。
と、塩対応な伯爵弟にため息をついたレグルは椅子から立ち上がり、
「惚れた女が一緒だったんだよ。ほら、妻は仲良く半分こなんてできないでしょ?」
答えを告げる。
「それを踏まえてもう一度私の意向を伝えておこう。私はどちらの国とも友好的でありたいと願っている、と」
平和が一番、と言い残してレグルは執務室から出て行った。
レグルが出て行ってから彼の言葉を熟考すること数秒。
レグルの話を信じるならば、どうやらシルヴィアは権力者2人から王太子妃にと望まれているらしい。
シルヴィアを巡る争い。
今は友好的な2国だが、場合によっては国交に亀裂を入れかねない状態で。
そうなると当然うちの国にも影響があるわけで。
本人には全くその気はないのだが、構図的には権力者二人をたぶらかしたように見えなくもない。
つまり、これは。
「……ヒロインに見せかけた悪女ルート?」
いやいやいや、まさかただの公爵令嬢の婚姻が国を傾けるなんてと否定しつつも。
やばい、思考がシルヴィアの趣味であるロマンス小説に侵されている、とハルは苦笑した。