公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「メーベルって政略結婚推奨派だっけ?」

「別に推奨しているわけではありませんわ。出会いの一つだと思っているだけです」

 そして高位貴族たるもの下々の規範とならずしてどうします、と自論を展開する。

「じゃあメーベルは家のためなら好きでもない人と結婚できる、と」

 そう聞いて、意地悪な質問だったとシルヴィアは慌てて姿勢を正す。
 ラドン公爵家はブルーノ公爵家とは違い現陛下が即位後王兄殿下が臣下に下った際公爵位を賜った一代限りの公爵家。
 このまま目立った功績がなければ彼女の弟が賜るのは伯爵位。だからこそ彼女は少しでも条件のいい相手との結婚を望んでいるというのに。

「ごめっ」

「できますわ」

 メーベルはキッパリとシルヴィアの目を見て即答する。

「だって、今現在好きではない、というだけでしょう?」

 メーベルは不思議そうに首を傾げる。

「物語ならともかく、借金のカタに極悪非道の辺境伯爵のもとへとか二十も離れた方の後妻とか現実にはありえませんし。我が家はまがいなりにも公爵家で父は王兄。うちを謀ればこの国では生きていけないでしょう」

 しっかり調べた上で釣り合いの取れる相手を選ぶでしょうし、とど正論を述べたメーベルは、

「今、好きでなかったとしても。そこから先の人生の方が長いのです。結婚してからお互いを知る時間だってあるでしょう」

 変わらない気持ちが美しく賞賛されるのは、それがフィクションだからですわと言い切る。

「歩み寄る努力をすれば、積み重ねた時間の分だけ情もわくでしょうし」

 それが愛や恋というものに育つかもしれないではないですか、と彼女は微笑む。
 シルヴィアは得意げなヴァイオレットの瞳を見ながら、パチパチと目を瞬かせる。

「一緒にいたら愛や恋も育つ、かしら?」

『この結婚に愛はない』

 そう、宣言されているし。

『あーもう、シルちゃんは』

 といいながら世話を焼いてくれるのはハルの姉の義妹だからで。
 多分、彼は恋愛というものをしないと確固たる意志で決めてしまっているから。
 ハルの視界に入りたくて、恋愛対象からは一番遠い"家族"の枠に存在を捩じ込んでみたけれど。
 いつかは、もしかして。
 なんていうシルヴィアの淡い期待は、

「分かりませんわよ、そんなこと」

 メーベルによってばっさり切り捨てられた。
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