公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
 割り振られた仕事を淡々とこなしながらハルは先程のレグルとのやり取りを考察する。

『では、ナジェリー王国の王太子殿下が彼女をいたく気に入っていることは?』

 そもそも論として、何故シルヴィアはこうも他国の王族に狙われているのだろうか。
 私人として現れたレグルの意向はひとまず置いておいて、ハルは自分の知っている全ての情報を並べてみる。

(ナジェリーの王太子殿下とアネッサ殿下は元々そんなに仲が良くない。彼女の嫁ぎ先のハローディアは今までナジェリーとは国交がなかった。アネッサ殿下の恋愛結婚、は建前。ナジェリーの王太子とアネッサ殿下の支持率は拮抗。カルロス殿下は革新派。自信家で、切れ者)

 パズルをパチパチとはめていくように、全ての情報を精査し、将来起こりうる可能性を計算し検証する。
 それはハルにとって"当たり前"のことだった。

(シルヴィア・ブルーノ。序列5位の公爵家出身。幼少期に目立った功績なし、それどころか……)

 悪評すらあった。
 ベルが婚約者候補として公爵家に足を踏み入れるより前からそれはあって、シルヴィアの癇癪は常に絶えなかったらしい。
 手をつけられない、ワガママ令嬢だと。
 でも、それは……。

「そうするしか、なかっただけ……なんだよね」

 手を止めたハルはポツリとつぶやく。

『ベル、いか……ないで。お願い……置いて行かない、で……っ』

 ハルの脳裏に5年前のシルヴィアの姿が浮かぶ。
 ベルの名を呼びながら、膝を抱えて一人で声を上げて泣いている女の子。
 それは研究室で見かけた、目を輝かせ楽しげに兄に言い返していた姿とはかけ離れていて。
 いい子にするから、と。
 肩を震わせながらか細い声で泣いて懇願するその声に応えるものは誰もいない。

『ベル、一体どこにいるのよ』

 だけど、その目はけして諦めてなんかいなくて。

『……絶対、見つけ出して文句言ってやるんだから』

 自分にとって大事なモノを、絶対に手放すまいとする強い意思を秘めていた。
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