公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「でしょう? なんせハルはストラル家の末っ子。猫を被って大人ぶっていても、甘えっ子弟属性なのですよ!」

 あー私の弟可愛いが過ぎるとぐっと拳を握りしめ力説したベルは、

「ちなみに、滅多に見られない過去のコレクションがコチラ」

 ここから先は有料です、と写真入れをチラ見せする。

「うぅっ。見たい、けど。それ多分課金したらダメなやつ」

 クッと悔しそうに顔を背けたシルヴィアは、眠っているハルを見ながら、

「……ハルさんの、嫌がることはしたくないの」

 だからやめておくわと首を振った。

「ふふっ、さすがシル様」

 ベルは写真入れをポケットに仕舞うと、

「そんなあなただから、ハルはシル様に甘えているんでしょうね」

「え?」

 甘えている?
 ハルさんが?
 私に?
 と疑問符いっぱいのシルヴィアに、

「ハルは、警戒心かなり強めで。滅多に懐かない猫みたいに本音を見せません。ですから、たとえ体調を崩しても誰にも気づかれないように上手に隠してしまうのです」

 本来なら、とベルは静かな口調で説明する。
 ベルの知る限り、ストラル家の人間以外の前でハルがダウンしたのは初めてだ。
 それほどシルヴィアはハルにとって近しい存在になっているのだろう。多分、本人も無自覚のうちに。

「ベル?」

 シルヴィアになら話してもいいかもしれない。
 不思議そうに見返してくるサファイアの瞳を見ながら、ふとそう思った。
 ずっとハルを引き止めてくれる"誰か"が欲しかった。
 それが押し付けじみた勝手な願望だと分かっていても、ベルはどうしてもそう願ってしまう。
 そして思うのだ。
 シルヴィアならもしかして、と。

「これは私の独り言だと思って、聞き流してください」

 そう言ってベルは秘密を明かす。

「兄が言うには通常の人間では到底手に負えないほどの膨大な情報をありえない速度で脳内処理するとこうなってしまうのだそうです」

 それはどういうことだろう? と目を瞬かせるシルヴィアに向けてベルは言葉を紡ぐ。

「ストラル家は王城で膨大な書物の管理をしていたしがない司書官の家系だったそうです」

 それは、兄が爵位を継ぐより遥か昔の話。
 膨大な量の書物をただ管理するだけ。
 それは誰からも見向きされない所謂閑職というやつで。
 政治的になんの影響力もない家柄で、子爵位を継いで登城したばかりのお人良し貴族。
 彼がみんなの嫌がる仕事を押し付けられたのがそもそものはじまりだった。
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