公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「だけど、王城に保管されている書物の中に答えはなかった。ですが、結果はシル様が知る歴史の通りです」

 職務怠慢と咎められるほどのストラル子爵の過集中。
 一度覚えた知識欲が、領地に引きこもったくらいで治るはずもないだろう。
 彼はおそらくその膨大な知識から答えを弾き出したのだ。
 結果、わが国では"疫病が流行しなかった"という事実が残った。
 でも、そこにストラル家の名はない。
 載せられなかったのだ。無能だと解雇した人間に頼ったなんて、外聞の悪いことをプライドの高い貴族たちが許すはずがないのだから。

「……もしかして、ストラル家は」

 "起こらなかった"ということをその対策のおかげだと証明することは難しい。
 そして子爵位ではこの国の王国法の強制召集の対象にはならない。
 なら、何かあった時に呼び出せる口実を作ればいい。
 察したように黙り込み、傷ついた表情を浮かべるシルヴィアにクスッと笑ったベルは、

「名誉にも地位にも人にすら執着しないその人をただ国に縛りつけるためだけに与えられた爵位。ストラル伯爵の誕生です」

 彼女を優しく撫でながら淡々と昔話の結末を告げた。

「ちなみに、こんなくだらないことで二度と呼び出すなと作ったのが図書管理システムなんだとか」

「利用するだけ利用して、搾取し続けてきたのね。この国は」

 そして、有事の際には手を差し伸べず、ストラル伯爵家を切り捨てた。
 ぎゅっと拳を握りしめ、肩を震わせまるで自分の事のように怒るシルヴィア。

「お優しいですね、シル様は」

 大きな瞳に涙をためた彼女を見て、ベルはぎゅっと優しく抱きしめる。

「まぁ、そんなわけでストラル家には初代伯爵のような非常に頭脳明晰な人物が生まれることが稀にあるそうなんです。で、そんなヒト達は頭を使い過ぎるとオーバーヒートを起こして倒れてしまう、と」

 だからハルのこれは持病のようなモノなのだとベルはそう説明した。
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