公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
 シルヴィアは時折り苦しそうに眉を寄せ、眠り続けるハルをじっと見つめる。

『ここ、空いてる?』

 そう言って声をかけてくれたのは確かにあった過去の出来事で。
 何も聞かず、シルヴィアが泣き止むまでずっと冷めたコーヒーを片手に、ただ側にいてくれたのは他の誰でもなく、ハルで。
 もしも、今まで見てきたハルの姿が全て計算で作られていた虚構だったとしても。
 ハルの優しさに救われた。
 それは、紛れもなくシルヴィアにとっての真実だった。

「ベル、私には分からないわ」

 そう言って静かに口を開く。

「要するにハルさんは感情表現がちょっと苦手なただただ優しい人ってことでしょう? それの一体何が問題なのかしら?」

 苦手なことの一つや二つ人間なら誰しもあるでしょう? と心底不思議そうな表情で首を傾げるシルヴィアは、

「でも確かに倒れちゃうのは大問題ね!! 一体どんな案件でそれほど頭を悩ませたのかしら?」

 私が力になれることならいいのだけどと真剣に悩み。

「はっ! 公爵家の援助はダメなんだった。でも社交の場で情報収集くらいならって、私今公爵令嬢じゃないし。……うぅん、お友達に会いに行く程ならあり?」

 どこまでがセーフラインかしら? とつぶやき契約事項を再確認しなくっちゃと対策を練るシルヴィアは、

「ねぇ、ねぇ。ベル! どう思う?」

 どうすればハルさんの負担を減らせるかしら? とベルに助言を求めた。
 ベルはアクアマリンの瞳をゆっくり瞬かせ、シルヴィアを見つめる。

「ふふっ、あーやっぱり私の義妹は最高過ぎる!!」

 ハルの秘密を聞いてもシルヴィアはいつもと何ら変わらない。
 それが何より嬉しくて。

「シル様がシル様のままで側にいてくれたら、それだけで十分力になりますよ」

 可愛い可愛いとベルはシルヴィアを撫で回す。
 シルヴィアの周りには自然と人が集まる。
 くるくるとよく表情が変わり素直に物事を受け止められるシルヴィアに頼られたらつい手を差し伸べたくなってしまう。
 そんな彼女の人柄は、自分たちにはない才能だとベルは思う。

「私、もしこれから先離縁することがあってもシル様とはずっと一緒がいいです」

 と宣言するベルに、

「ベル。私が可愛くて有能で最高なのは間違いないけれど、お兄様が泣いちゃうから離縁はやめてあげて」

 もう、と言いつつされるがままのシルヴィアは、私だってみんな一緒がいいわよと小さくつぶやく。

「ふふっ、照れてるシル様も可愛過ぎる」

 上機嫌な声で笑ったベルは、

「ハルのこと、よろしくお願いしますね」

 そう言って静かに帰って行った。
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