公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜

その10.公爵令嬢とお茶会。

 石窯でじっくり焼いた極厚ふわっふわパンケーキ。
 その上に雪のような粉砂糖が散りばめられ、パンケーキの熱でバターがトロリと溶け出す。
 ホイップクリームとアイスにベリーソースを贅沢にかけ、イチゴをはじめとしたフルーツが彩りを添える。
 それはまさに絵本から飛び出してきたような理想のパンケーキ。

「ふわぁぁー、ハルさん! このパンケーキ、ラリーのパンケーキみたいっ!!」

 可愛すぎて食べるのもったいないっ! と目を輝かせるシルヴィアを見て、やり切った感満載のハルは満足気な表情を浮かべ、

「シルちゃんのお気に入りの絵本って絶対ラリーだと思ったんだ」

 どうぞお座りください、お姫様と椅子を引く。

「コレでシルちゃんのご機嫌が治るといいんだけど」

 そう声をかけられ、ふわぁー美味しそう、と目を輝かせていたシルヴィアは慌ててふいっと膨れっ面を作り、

「た、食べ物くらいじゃ治りませんからっ!!」

 ご機嫌取り継続を希望した。

 先日、熱を出したハルを見ながら、側にいてたくさん"楽しい"を作りたいとは思ったけれど。
 あのまま側にいたせいで、いつの間にかうとうとし始めたシルヴィアは寝ぼけてハルのベッドに潜り込んでしまった。
 目が覚めてシルヴィアの瞳に一番に映ったのは穏やかなハルの寝顔で。
 慌てて起きようとしたところで手が繋がれていることに気づいて心臓がありえないくらい早くなり。
 一人でドギマギしていたところでハルの腕が伸びてきてぎゅっと抱きしめられた。

「みやぁぁーーーっ!?/////」

 突然のことに驚き、耐性がないシルヴィアが思わず奇声を発したところで。
 さらに抱きしめられ、額にキスされた。

「ふわっ!?」

 とシルヴィアが軽くパニックになりかけたところで。

「……アリィ、しぃー。僕まだ眠たいよ」
 
 もうちょっとねんねしよーねと優しい口調でそう言われ、トントンと背を叩きあやされた。

「アリィ?……って、それは伯爵の娘(3歳)じゃないっ!!」

 叫び声で眠気が飛んだハルの目に映ったのは、涙目で顔を真っ赤にし頬を膨らませたシルヴィアで。

「ハルさんの……ハルさんのバカーーー!!」

 語彙力が消失したシルヴィアにどストレートに怒られた。
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