公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「いらっしゃい。そろそろ来るんじゃないかと思っていたよ」
使用人に案内され部屋に通されたハルをそう言ってルキは出迎えた。
使用人にリヒトを預けて部屋に2人きりになると、
「はい、ハルの目的はコレだろ」
挨拶もそこそこに、綺麗にまとめてある書類の束を差し出す。
それは、シルヴィアの今までの公爵令嬢としての活動記録。
一からこっそり調べるよりも正確な記録を残しているだろう保護者にダメ元でお願いしたらあっさり許可が降りた。
「……いいんですか、見ても」
「まぁ、本来は見せるものではないけど」
隠さなきゃいけないものも特にないし、とルキは改めて閲覧許可を出す。
「代わりに、といってはなんだがシルヴィアのエスコートを頼めないか?」
ルキはハルに招待状を見せる。
それは今準備中のカルロス王太子の側近とナジェリー国エステル王女の婚姻の披露目の夜会のモノ。
「本人に出欠の返事は聞いていないけど。シルは絶対出るから」
シルは負けず嫌いだからとルキは告げる。
「エスコート、ですか」
担当課に兼任させられているとはいえ、あくまで応援。
よほどのトラブルがなければシルヴィアのエスコートにつくことは可能だろうが。
公爵家として出席するならば特にエスコートなんてなくてもと思考を巡らせるハルに、
「知っての通り、シルには婚約者がいない。そんなシルにシルヴィア・ブルーノ個人宛で招待状が届いている」
ルキは情報を追加する。
「それはまた、露骨ですね」
シルヴィアに婚約者がいないことは公の事実。
この状態でパートナーも伴わず現れたシルヴィアがファーストダンスを王子様に申し込まれでもすれば、詰みの一手だ。
だとしても。
「僕よりも、血縁者とかの方が良くないですか?」
シルヴィアにいとこはいないが、確か再従兄弟はいたはずだ。
そこが無理でもストラル伯爵家とは違いブルーノ公爵家には連なる縁戚の貴族が多数いる。
その中からエスコートする人間を選ぶ方が釣り合いも取れるだろうと思ったのだが。
「生憎と、ブルーノ公爵家も一枚岩ではなくてね。任せられそうな人間は大抵既婚者か婚約者がいるし、それ以外はあわよくばシルヴィアと縁を持ちたいと下心が透けて見える輩でね」
我が妹君はモテモテだから、とルキは机の上に無造作に置かれ山になっている書類の一角を指す。どうやらそれら全てがシルヴィアに送られてきた釣書らしい。
「その点、ハルならシルが嫌がる可能性ゼロだし。シルが何かやらかしてもフォローしてくれそうだし。何よりベルの弟で外交省の人間という肩書きも持ってて使い勝手いい。というわけでシルのエスコートを頼みたい」
「……僕のこと便利に使い過ぎじゃないでしょうか、お義兄さま?」
ベルと結婚して以降"遠慮"の二文字が行方不明になりつつあるルキ。
嫌味を込めて普段とは違う呼び方をしてみても、
「いやぁ、いいなその響き。レインにも羨ましがられるんだよ」
綺麗な顔で涼しげに微笑み、応戦してくる始末。
全く厄介なと思いつつ、時間もないしどうしようかなと書類を前に躊躇うハルに、
「伯爵にね、助言されたんだ。"お前が倒れたら話にならない。人に頼れ"って」
クスッと笑ったルキは楽しげに受け売りを口にする。
それは公爵領が被災しそれまでの行いのツケが回ってきて、物資の確保に難航していた時のこと。
ストラル伯爵から支援を受けた"借り"は返せないまま今日に至る。
せめて共同事業の利益の取り分を数年間ストラル伯爵家側が多くなるようにしようかとも思ったのだが。
『コレはシルヴィアお嬢様個人への先行投資だ、と言ったはずだが?』
と言って伯爵に受け取りを拒否された。
甘えてしまっているな、と思いつつも、
『お兄様はコレでいいのよ』
カッコいいでしょ、とベルに自慢げに言われたので、ルキは頼った分いつか誰かに返せるような自分になることに決めた。
使用人に案内され部屋に通されたハルをそう言ってルキは出迎えた。
使用人にリヒトを預けて部屋に2人きりになると、
「はい、ハルの目的はコレだろ」
挨拶もそこそこに、綺麗にまとめてある書類の束を差し出す。
それは、シルヴィアの今までの公爵令嬢としての活動記録。
一からこっそり調べるよりも正確な記録を残しているだろう保護者にダメ元でお願いしたらあっさり許可が降りた。
「……いいんですか、見ても」
「まぁ、本来は見せるものではないけど」
隠さなきゃいけないものも特にないし、とルキは改めて閲覧許可を出す。
「代わりに、といってはなんだがシルヴィアのエスコートを頼めないか?」
ルキはハルに招待状を見せる。
それは今準備中のカルロス王太子の側近とナジェリー国エステル王女の婚姻の披露目の夜会のモノ。
「本人に出欠の返事は聞いていないけど。シルは絶対出るから」
シルは負けず嫌いだからとルキは告げる。
「エスコート、ですか」
担当課に兼任させられているとはいえ、あくまで応援。
よほどのトラブルがなければシルヴィアのエスコートにつくことは可能だろうが。
公爵家として出席するならば特にエスコートなんてなくてもと思考を巡らせるハルに、
「知っての通り、シルには婚約者がいない。そんなシルにシルヴィア・ブルーノ個人宛で招待状が届いている」
ルキは情報を追加する。
「それはまた、露骨ですね」
シルヴィアに婚約者がいないことは公の事実。
この状態でパートナーも伴わず現れたシルヴィアがファーストダンスを王子様に申し込まれでもすれば、詰みの一手だ。
だとしても。
「僕よりも、血縁者とかの方が良くないですか?」
シルヴィアにいとこはいないが、確か再従兄弟はいたはずだ。
そこが無理でもストラル伯爵家とは違いブルーノ公爵家には連なる縁戚の貴族が多数いる。
その中からエスコートする人間を選ぶ方が釣り合いも取れるだろうと思ったのだが。
「生憎と、ブルーノ公爵家も一枚岩ではなくてね。任せられそうな人間は大抵既婚者か婚約者がいるし、それ以外はあわよくばシルヴィアと縁を持ちたいと下心が透けて見える輩でね」
我が妹君はモテモテだから、とルキは机の上に無造作に置かれ山になっている書類の一角を指す。どうやらそれら全てがシルヴィアに送られてきた釣書らしい。
「その点、ハルならシルが嫌がる可能性ゼロだし。シルが何かやらかしてもフォローしてくれそうだし。何よりベルの弟で外交省の人間という肩書きも持ってて使い勝手いい。というわけでシルのエスコートを頼みたい」
「……僕のこと便利に使い過ぎじゃないでしょうか、お義兄さま?」
ベルと結婚して以降"遠慮"の二文字が行方不明になりつつあるルキ。
嫌味を込めて普段とは違う呼び方をしてみても、
「いやぁ、いいなその響き。レインにも羨ましがられるんだよ」
綺麗な顔で涼しげに微笑み、応戦してくる始末。
全く厄介なと思いつつ、時間もないしどうしようかなと書類を前に躊躇うハルに、
「伯爵にね、助言されたんだ。"お前が倒れたら話にならない。人に頼れ"って」
クスッと笑ったルキは楽しげに受け売りを口にする。
それは公爵領が被災しそれまでの行いのツケが回ってきて、物資の確保に難航していた時のこと。
ストラル伯爵から支援を受けた"借り"は返せないまま今日に至る。
せめて共同事業の利益の取り分を数年間ストラル伯爵家側が多くなるようにしようかとも思ったのだが。
『コレはシルヴィアお嬢様個人への先行投資だ、と言ったはずだが?』
と言って伯爵に受け取りを拒否された。
甘えてしまっているな、と思いつつも、
『お兄様はコレでいいのよ』
カッコいいでしょ、とベルに自慢げに言われたので、ルキは頼った分いつか誰かに返せるような自分になることに決めた。