公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「昔、伯爵に言われたんだよね。人心掌握にかけてはあなたよりずっとお嬢様の方が才があるのではないですか? って。本当、その通りだよ。シルは相手の懐に潜り込むのが非常に上手い。そしてヒトを動かすのも」

 そうだろうな、とハルは思う。
 彼女は生粋の上流階級のお嬢様だ。15歳を過ぎ本格的に社交の場に出てきたシルヴィアのことは仕事で出席した夜会で何度も遠目に見ていた。
 その立ち振る舞いは正しく淑女そのもので、非常に美しくとても遠い存在に感じるのに。

『ハルさん! コレめちゃくちゃ美味しい』

 一歩外に出れば気取らずに炊き出しメシだって頬張ってみせる。
 そんなシルヴィアは、

『すごく活気があってイースト街って、いい街ね』
 
 いつだって自分の目で見聞きして物事を判断してきた。
 シルヴィアがアパート前で燻製事件をやらかした日、

『みんな美味しそうに食べてくれてるし、沢山話しかけてくれたし。広場があっという間に賑やかな宴会会場に早変わり』

 怒られちゃったけど、楽しかったと少し焦げたマシュマロを頬張るシルヴィアを見ながら、普通こうはならないのだという言葉をハルは飲み込んだ。
 確かにイースト街は庶民が暮らす街としてはかなり治安が良く、住民同士の付き合いも悪くない。けれど、それだけだ。
 人を集め、人の心を掴み、人を動かす才。シルヴィアは息をするように誰かを魅了し、やってのける。きっとそれは上に立つ者の資質というやつなのだろう。
 王子様にも目を付けられるわけだ、とハルは彼女の功績に目を通し納得する。

「もう一つ、お尋ねしても」

「何かな?」

「爵位、余ってますよね?」

 フィール子爵家が没落した原因が継ぐものがいなかったというだけで、そのまま公爵家(本家)で領地問題を解決してしまったのなら浮いた爵位は国に戻していないはず。
 そしてそれはおそらくブルーノ公爵が継承権限を引き継いでいる。

「あるよ」

 その予想は正しかったようで、ルキはあっさり肯定した。
 
爵位(特権階級)に興味、出た?」

 にこっと貴公子らしい微笑みを浮かべるルキをみながら、ハルは頭の中に沢山のピース(情報)を並べる。

「そうですね」

 クリアするための必須条件と達成する可能性。
 それらを何度も組み合わせながら、最適解になるストーリーを探す。それはパズルを組み立てるような作業で。

「とっても興味あります」

 頭の中でカチッとピースがハマる音と共にハルはそう答えて立ち上がる。

「そろそろお開きの時間ですね」

 お茶会楽しめたかな、とシルヴィアの顔を思い浮かべクスッと笑ったハルは、ルキに情報提供の礼を告げて部屋を後にした。
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