公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「二人ともおかえりなさい」

 待っていましたよとトンカチを片手に挨拶をしたベロニカは、

「じゃあ、とりあえずごはんにしましょうか」

 にこやかに塩釜を叩き割った。

「はい、どうぞ」

 沢山食べてくださいね、とメインの塩釜以外にも色々な料理が並ぶ食卓を見て、

「義姉さん、なんか卵料理多くない?」

 好きだけど、とハルは感想を漏らす。
 メインの塩釜ローストビーフ以外ほぼ卵料理。
 これは何かあったな、と察するハルを尻目に、

「そうでしょうか?」

 にこやかな表情で首を傾げるベロニカ。
 が、目が笑っていない。
 大人しいのがかえって怖い、とハルが思っていると、

「そういえば伯爵を待たなくていいんですか?」

 シルヴィアが姿の見えない屋敷の主人の所在を尋ねた。

「伯爵なんて、知りませんっ!!」

 瞬間、場の空気が凍る。
 伯爵が大好きで仕方ないベロニカにしては珍しい。

「伯爵の浮気ものー!!」

 ふるふると肩を震わせてベロニカがそう叫ぶけれど。
 伯爵が浮気? 絶対しなさそうなんだけどとシルヴィアはハルの方を見る。

「ああ、もしかして兄さん領地?」

 もう、そんな時期だっけ? とベロニカの不機嫌の理由が分かりすっきりしたハルは気にせず食事に手を伸ばした。

「そうですよ! もう1週間も帰って来ない!!」

 妻子を置き去りなんて最低です、とベロニカは嘆くが、

「……ストラル領って馬車で3日はかかりませんでしたっけ?」

 つまり往復6日。領主の仕事をしに行ったのなら全然時間が足りないとシルヴィアは思う。

「非正規ルートなら1日かかりませんよ!」

 あと領主のお仕事じゃありませんと頬を膨らませたベロニカは、

「やきとりの卵が孵るまで戻らないなんて横暴ですっ」

 伯爵の浮気ものーと再度叫んだ。

「えーっと、追いかけないのですか?」

 やきとりが何を指すのかは分からないが、ベロニカが大人しく待っているなんて珍しい。
 そう思って尋ねたシルヴィアに、

「母様今領地出禁なんです」

 レノルドがそう解説する。

「お父様にめっ、されたの。アンバーとケンカめっ、なのよ」

 だからアリィとお兄様がお母様のことよしよしするの! とアリッサは任されましたと胸を張る。
 が、可愛いだけで正直全く疑問が解消されない。
 解説求むとハルの方を見れば。

「まぁ、毎年この時期は兄さん領地に引きこもっちゃうんだよ。可愛がってる飛竜の世話で」

 ついでに領主の仕事も片付けてくるから長期滞在とハルは説明した。
 そう言われれば、最近社内で伯爵を見かけないなとシルヴィアは思い出す。
 伯爵が不在の日は今までもあったし、伯爵がいなくても会社の運営自体は問題なく回るようにされているので全然気づかなかったけれど。

「くっ、やはりあの時卵を食べておけばっと悔やまれてなりません」

 伯爵との時間を取られて本当に悔しそうに話すベロニカ。
 その悔しさをぶつけるように卵料理が量産されているらしい。

「アンバーかわいいのに」

「母様、いい加減にしとかないと本気で父様に怒られますよ」

 我が子に嗜められるも、

「ふたりは私と伯爵どちらの味方なんですか!?」

 妻子ほったらかしで連絡もないんですよ!? 寂しくないんですか!! と訴えるベロニカ。

「「今回は父様」」

 が、毎年のことで慣れっ子になっており、
すでに伯爵に買収され済みの2人は仲良くそう答えた。
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