公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「時期が過ぎれば父様戻ってくるって」

 泣き真似するベロニカをハイハイと軽く流しつつ慰めるレノルドを見ながら、

「伯爵ひどいっ!」

 こんな小さな子と妻を放置するなんて、とシルヴィアはベロニカの肩を持つ。

「シルさん」

「大体、連絡の一つも入れられない状況ってなんですか!」

 そんなの、寂しすぎるとシルヴィアはきゅっと拳を握る。

「手紙の一通くらい……くれたって」

 ずっとずっと待っていた。
 でも、一度だって届かなかった父親からの手紙。
 誕生日を過ぎる度、自分はいらない存在なのだとそんなふうに思うようになった。
 父と和解し過去になった今でも、その時の事が忘れられないシルヴィアは、

「待ってる方は、寂しい……です」

 そう口にする。
 しーんとなってしまった食卓。
 さて、どうするか。とハルが思案していると。

「というわけで、私少々ストラル伯爵領に行ってこようと思います」

 ぐっと意を決したように拳を高らかとあげたシルヴィアはそう宣言する。

「へっ? あの、えっとシルちゃん」

「伯爵にはもともとお休みをとってもいいって言われてましたし。空路便押さえて、そこから馬車を出してもらえば2日かからずストラル領までいけますし」

 来週末は祝日も合わせて休日3日。中日までにスケジュール調整すれば、5〜6日は休みを確保できる。

「ちょうどいいですね! ハルさんのお母様(サラ夫人)へのご挨拶とご報告もまだですし」

 行けそう、と頭の中で結論を出したシルヴィアは、

「さっそくサラ夫人にお伺いしますってお手紙書かなくっちゃ」

 飛竜特急便で飛ばせば明日にはお手紙届くわねと時計を見ながらそう言った。

「いや、待って」

 思い立ったら即行動。
 フットワークが軽すぎるシルヴィアを前にどう止めようかと焦るハル。
 このままシルヴィアに突撃されて、領地の母に契約結婚しましたなどと報告されたらベルの二の舞になりかねない。
 阻止せねば、とハルが思ったところで。

「まぁ! シルさん。私のためにそこまでしてくださるなんて」

 感激したような声を上げ、目を潤ませたベロニカがシルヴィアの手をぎゅっと握る。

「私の代わりに伯爵にガツンと文句言ってきてくださいっ! ぜひ!」

 なんなら出張の名目つけますっ! とシルヴィアの領地行きを後押しする。
 社長夫人命令です、とか言っているが完全なる職権乱用である。

「任せてくださいっ! ベロニカお姉様を泣かせるなんて許せませんもの」

 いやいやいや。
 よく見て、ベロニカの手元に目薬がっとハルが突っ込むより早く。

「ああ、こんな可愛い妹ができて私は幸せ者ですね」

 こんなこともあろうかと空路便押さえておきました、とベロニカはどこからかチケットを取り出す。

「ちょ、義姉さん!?」

「ハルにぃ、諦め大事」

 ああなった母様は止められない、とレノルドがハルの裾を引っ張りフルフルと首を振る。
 悟ったような表情を浮かべた甥っ子は、

「言ったでしょ? 色々浮かれて準備してる、って」

 席に着いた時点でハルの負けとレノルドは敗北宣告を出した。

「……準備良すぎでしょ」

 チケット2枚あるんだけど、とつぶやいたハルに、

「じゃ、よろしくお願いしますね」

 一刻も早く伯爵を連れ戻してください、とベロニカはにこやかに無茶振りをした。
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