公爵令嬢の婚活事情〜王太子妃になりたくないので、好きな人と契約結婚はじめました〜
「ハルさん、コレで何人目よ?」

 修羅場の終結までしっかり見届けたシルヴィアは呆れた口調で姿を現す。

「あれ、シルちゃん」

 どうしたの? と呑気に尋ねたハルは通常運転で、先程手酷く振られたというのに全く尾を引く様子がない。
 先程の彼女が若干可哀想にさえ思える。

「いい加減にしておかないと、そのうち本当に刺されますよ」

 そう言ってハンカチを差し出すシルヴィアに、

「大丈夫。匙加減は心得てるから」

 まだ死にたくないなぁと呑気な口調でそう言ったハルはお礼を言ってそれを受け取った。

「ところでシルちゃんはこんなところでどうしたの?」

 今日は義兄さんお休みだよと先程とは全く違う優しい視線を向けられて、シルヴィアはホッとしたような表情を浮かべる。

「えっと、ハルさんに相談したい事があって」

 やや歯切れ悪く切り出したシルヴィアはじっと見たハルは、

「了解。ちょっと待っててね」

 カフェテリアで飲み物を注文し、シルヴィアの頭を軽く撫でてから、すぐ戻るからと満面の笑顔で去って行った。
 シルヴィアは頬が熱くなるのを自覚しながらテーブルに突っ伏す。

「……こういう事、気軽にするからぁ」

 置かれたのはシルヴィアの好きなココアとちょっとビターなガトーショコラのアイス添え。
 もちろん支払い済みで、流れるような動作で席までエスコートされた。

「だから、みんなに勘違いされるのよ」

 ココア二杯目だしとぶつぶつ言いつつシルヴィアはパクッと一口ガトーショコラを口に運ぶ。

「……美味しい。すっごくココアと合いそう」

『君の事好きでもなければ好きになる予定もないし、仕事最優先だから君に割く時間も取れないし、歩み寄る気もない』

 自分が言われたわけではないのに、先程のハルのセリフがシルヴィアの胸に刺さる。

「……知ってる、わ」

 ハルにこの気持ちがバレたら、きっとその他大勢の女の子の一人になってしまう。
 だから、できるだけ早く頬の熱が冷めることをシルヴィアは願った。
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