後悔

私との未来？
私がバカなことしなければ、あれからも先に続いていたはずの未来？


「オレが最後の電話の時言ったこと覚えてる？」


ピクリと体が反応する。
あの電話の事を忘れるわけがない。
でもそれをケイスケに言うことはできなくて、ただ見つめた。


「俺、アカリのことずっと好きでいるからって。｣


あの時のこの言葉は、ずっと私の中で大切にしてきた。
あの時の光景が一気に頭の中を巡る。

書きかけたメモ。
番号を何度押そうとしても続きを押せない指。
ツーツーと終わりをしらせる無機質な音。

あの時の感情がリアルに思い出される。
苦しい。
きっと今私の顔はひどく悲しみに歪んでいる。
そんな私を見ながらケイスケは眉を下げて少し微笑んだ。


「オレ、今でもアカリが好きだよ。｣


7年ぶりに聞いたこの声、この言葉。
切なさをおびながら、どこか吹っ切れたような声。
ケイスケの言葉を聞いた瞬間に駆け巡っていた頭のなかの悲しい光景がサッと消えた。

切なげに優しく微笑むケイスケは凄く綺麗で、それは、ドラマのワンシーンを見ているようだった。

現実になんかなり得るはずの無いことが目の前で起きている。
現実とは思えない光景に思考が停止した。

だって、誰が思うだろう。
浮気をして勝手に逃げた私を７年間もずっと想っていてくれたなんて。
私達はずっと想い合っていたなんて。

吹っ切れたはずのケイスケへの想いがまた胸の奥で沸き上がりそうなのを感じた。
ケイスケを好きだった頃の気持ちを思い出す。

だけど、同時に不安になる。
ただ懐かしくなっているだけかもしれない。
ケンジさんと話したときに思ったんだ。
中途半端なままでいたから、ずっと引きずっていたんだって。
本当に好きだったのかさえ疑った。
ちゃんと考えなきゃ。


「ごめん！ごめん！
困らすつもりじゃなかたんだ。｣


ケイスケはアハハと笑う。


「アカリ、難しい顔してる。｣

「あっ…、ごめん。｣

「7年振りに会って急にどうこうしようなんて思ってるわけじゃないんだ。
まさかアカリに会えるなんて予想外だったし。
ただ、オレの気持ちを伝えたかっただけ。」


7年前よりもずっと優しく、私を気遣ってくれるケイスケ。
チャラいという言葉が似合う当時流行りど真ん中にいるような男子高生だった。
それが、今は同じ人とは思えないくらいに大人の雰囲気をもったケイスケ。


「だから、アカリと友達になりたいんだけど、ダメ…かな？｣


友達…？ケイスケと？友達？
なれるの？私たちが…？


｢こっちにあまり友達いないんだよね～。
だから友達欲しい！｣

｢…あ、うん…。｣


まだよく理解できないまま、うんと返事をしてしまった。
だけど、ケイスケの表情はみるみる明るくなる。


｢マジで！？やった！
アカリありがとう。｣


ケイスケがこんなに喜んでくれるなんて思わなくて驚いた。
でも、ケイスケの喜んでくれる顔に自然と良かったと思っていた。


「アカリ、これからよろしく！」

「う、うん！」


考えてもなかった｢友達｣。
｢友達｣ならなれる。
０か１０しかなかった私は、｢友達｣っていう新鮮な響きに改めて承諾した。

ふと気がつくと、自然に笑いあっていた。
ケイスケとこんな風に笑いあえるなんて思ってなかった。
そのことに驚きつつも、こうなれたことに良かったと感じた。

お互いいっぱい苦しんだけど、このためだったのかもしれない。
やっぱり無駄じゃなかったのかな？
人生に無駄なんかないって本当なのかも。

ケンジさんの言葉を思い出していた。