後悔
お店の前に着くと、ケンジさんはジッとお店を見上げた。

大人っぽく落ち着いた茶と白の外観。
白い壁は左官屋さんに変化をつけた波のような模様に塗って貰った。
大きな木製の両開きのドア。

本当に素敵だ。

ケンジさんは、しばらく満足そうに眺め、チャラとポケットからカギを取り出す。


「入るか!」


外の冷たい空気を吸ったお陰か、酔いがちょっとさめたようだ。

カギが開くカチャンという音に胸が高鳴る。
のぶを両手方掴み、ケンジさんはドアを一気に全開にした。
暗く広がるその先の眺めはうっすらと、だけど輝いているみたいに私の目は釘付けになった。
ケンジさんに「入れよ」と促され、ゆっくり玄関に足を踏み入れた。

この数日、ケンジさんに言われ「お楽しみ」としてここには来ていなかった私。
内装の完成をまだ見ていない私はとてもドキドキしていた。

暗い店内を入ると、ケンジさんがカチッと壁のスイッチを押す。
パッと明るくなる店内。
まだ何にもなく、ただ広い。

ガランとしていて、ほんの少しの足音と2人の声が響く。


「すごい…。」

「まぁ、まだ何にもないけどな。
気に入ったか?」

「もちろん!!すごいケンジさん!」

「そうか!」


嬉しそうに笑うケンジさんを見てると、なんだか私も嬉しい。


「そこがお前の場所になる。」


ケンジさんが指した方を振りかえる。
ドアの左側、壁は扉がついた大きな棚が備え付けられた場所。


「まだ無いけど、その棚の前にカウンターがつく。
アカリのだぞ。」

「私の?」

「ちゃんとお前の要望は叶えるからな。」

「ケンジさん…。ありがとう!!」


嬉しくて、コツン コツンと足音を響かせながら棚の前にいく。

まだ何にもないのに不思議としっくりくる。
ここからフロア全体が見渡せる。

そこからお店の奥へ目を向けると、イメージがわいてきた。
一番奥、そこでケンジさんが楽しそうにお客さんに向き合うイメージ。

たぶん、あそこがケンジさん専用の場所になる。
ここからもよく見える、あの場所。
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