冷酷元カレ救急医は契約婚という名の激愛で囲い込む
「ご連絡をいただいた矢崎拓也です」
血相を変えて警察署に飛び込んだ拓也は、切羽詰まった声で言う。
すると対応してくれた警察署員が、「こちらです」と、拓也を警察署の二階へと案内してくれた。
たぶん自分は、相当酷い顔をしていたのだろう。
階段を上り廊下を歩く間、繰り返し「大丈夫ですか?」と確認された。
「大丈夫です。彼女をひとりで外出させたことを後悔して居るだけです」
拓也は強く拳を握りしめる。
昨夜、繁華街で火事が起き、病院からの呼び出しを受けた。
一晩中その処置におわれ、家に戻ると、ソファーに腰を下ろすなり泥に沈み込むように眠りに落ちてしまった。
目が覚めると昼近くで、既に香苗は出掛けた後だった。
彼女が出掛けることに気付けなかった自分を悔やみつつ連絡すると、知らない女性が香苗の電話に出たのだ。
そしてその女性に、香苗が男に絡まれているところを助け、警察の到着を待っているところだと聞かされ、警察と連絡を取りつつ急いで駆け付けて今に至る。
「失礼します」
案内してくれた警察職員がノックしてドアを開ける。
「香苗っ!」
ドアの隙間から彼女の姿が見えた瞬間冷静さを失い、拓也はもどかしさを抑えきれず、腕を伸ばしてドアを押し開けていた。
こちらの姿を見るなり、蒼白な顔をした香苗が立ち上がる。
「拓也さん」
香苗は勢いで転がった椅子をそのままに拓也に駆け寄り、その胸に飛び込んで泣き声を上げる。
「香苗、ひとりで行動させてごめん」
拓也はそんな彼女を強く抱きしめ、ひとりで外出させてしまったことを謝った。
彼女が黙って出掛けたのは、疲れて眠る自分を気遣ったからだとわかるだけに苦しい。
ひとしきり泣いて香苗が落ち着くのを待って、拓也は警察から説明を受けた。
一度しっかり感情を吐き出したことで多少は落ち着いたのか、香苗も同席し、警察になにか確認されればきちんと受け答えをしていた。
その話を要約すれば、あの水守という男はやはり香苗にストーカー行為をはたらいており、マンションから出てきた香苗に声を掛け、彼女を何処かに連れ去ろうとしたのだという。
抵抗する香苗の声に気付いた近くの住人が警察に通報してくれたおかげで、それは未遂に終わったが、話しを聞くだけで血の気が引く。
ひととおりの話を聞き終えた拓也は、香苗の意向を確認した上で水守にストーカー規制法に基づいて接見禁止命令を出してほしいことを伝えた。
「目撃者の証言もありますので、すぐに禁止命令が発効されると思います。無理矢理どこかに連れて行こうとしたのであれば、拉致監禁
未遂の適用も視野に入れ、九重さんに二度と近付くことのないよう働きかけていきます」
警察のその言葉に、隣に座る香苗が安堵するのがわかる。
そんな怖い思いをさせてしまったことが、本当に申し訳ない。
「よろしくお願いします。こちらからも場合によっては、弁護士を雇い、彼に警告を出していきたいと思います」
その辺の対応は、相手の反応を見ながら決めていく必要がある。
この件に関しては、事前に知人の弁護士には相談済みだ。
その時受けたアドバイスによれば、警察や弁護士といった存在の陰をチラつかせることで、諦めて引き下がるストーカーがほとんどだが、中には逆恨みで逆上する者もいるので、相手の反応を見極めて行動を起こす必要がある。
大事なのは、これ以上香苗に怖い思いをさせないことだ。
その辺は警察も心得ているのだろう。
相手の反応を見ながら、効果がありそうなら、拓也が更なる法的措置を考えていることを伝えると言ってくれた。
「助けてくれた人へのお礼は、後日改めて行くとして、今日は帰ろう」
必要な手続きを終えて香苗に声をかける。
「これ、奥さんの荷物です」
香苗に付き添ってくれていた女性署員が、拓也に大きなトートバッグを差し出す。
お互い左手薬指に指輪をしているし、事件の経緯を話す中で入籍はまだまだが一緒に暮らしていると伝えたので、そう呼んでかまわないと判断したようだ。
「ありがとうございます」
お礼を言ってトートバッグを受け取った拓也は、それを肩に掛けようとして動きを止めた。
雑多に荷物が詰まったトートバッグの一番上、畳んだタオルの上に載せられているのは、ずっと昔に自分が香苗に贈った写真立てだ。
とっくに捨てたと思っていた写真立てを、今も彼女が持っているだけでも驚きなのに、写真立ての中では、あの頃のふたりが笑っている。
「え、これ?」
「奥さん、どうしてもこれを取りに行きたかったんですって」
拓也がなにを見ているのか理解して、荷物を渡してくれた女性署員が言う。
思いがけない言葉に驚いて香苗を見ると、さっきまで緊張で顔をこわばらせていた香苗が、顔を赤面させて口をパクパクさせている。
その表情が可愛くて、つい吹き出してしまう。
拓也のその反応に、香苗が一段と顔を赤くするので、余計に笑いが抑えられなくなる。
そんな場合じゃないとわかっているのに、愛おしさで胸がいっぱいになり、笑いをこらえられない。
拓也のクスクス笑いとそれを見て赤面する香苗の姿に、室内を満たしていた緊張した空気が一気に和んでいくのがわかった。
血相を変えて警察署に飛び込んだ拓也は、切羽詰まった声で言う。
すると対応してくれた警察署員が、「こちらです」と、拓也を警察署の二階へと案内してくれた。
たぶん自分は、相当酷い顔をしていたのだろう。
階段を上り廊下を歩く間、繰り返し「大丈夫ですか?」と確認された。
「大丈夫です。彼女をひとりで外出させたことを後悔して居るだけです」
拓也は強く拳を握りしめる。
昨夜、繁華街で火事が起き、病院からの呼び出しを受けた。
一晩中その処置におわれ、家に戻ると、ソファーに腰を下ろすなり泥に沈み込むように眠りに落ちてしまった。
目が覚めると昼近くで、既に香苗は出掛けた後だった。
彼女が出掛けることに気付けなかった自分を悔やみつつ連絡すると、知らない女性が香苗の電話に出たのだ。
そしてその女性に、香苗が男に絡まれているところを助け、警察の到着を待っているところだと聞かされ、警察と連絡を取りつつ急いで駆け付けて今に至る。
「失礼します」
案内してくれた警察職員がノックしてドアを開ける。
「香苗っ!」
ドアの隙間から彼女の姿が見えた瞬間冷静さを失い、拓也はもどかしさを抑えきれず、腕を伸ばしてドアを押し開けていた。
こちらの姿を見るなり、蒼白な顔をした香苗が立ち上がる。
「拓也さん」
香苗は勢いで転がった椅子をそのままに拓也に駆け寄り、その胸に飛び込んで泣き声を上げる。
「香苗、ひとりで行動させてごめん」
拓也はそんな彼女を強く抱きしめ、ひとりで外出させてしまったことを謝った。
彼女が黙って出掛けたのは、疲れて眠る自分を気遣ったからだとわかるだけに苦しい。
ひとしきり泣いて香苗が落ち着くのを待って、拓也は警察から説明を受けた。
一度しっかり感情を吐き出したことで多少は落ち着いたのか、香苗も同席し、警察になにか確認されればきちんと受け答えをしていた。
その話を要約すれば、あの水守という男はやはり香苗にストーカー行為をはたらいており、マンションから出てきた香苗に声を掛け、彼女を何処かに連れ去ろうとしたのだという。
抵抗する香苗の声に気付いた近くの住人が警察に通報してくれたおかげで、それは未遂に終わったが、話しを聞くだけで血の気が引く。
ひととおりの話を聞き終えた拓也は、香苗の意向を確認した上で水守にストーカー規制法に基づいて接見禁止命令を出してほしいことを伝えた。
「目撃者の証言もありますので、すぐに禁止命令が発効されると思います。無理矢理どこかに連れて行こうとしたのであれば、拉致監禁
未遂の適用も視野に入れ、九重さんに二度と近付くことのないよう働きかけていきます」
警察のその言葉に、隣に座る香苗が安堵するのがわかる。
そんな怖い思いをさせてしまったことが、本当に申し訳ない。
「よろしくお願いします。こちらからも場合によっては、弁護士を雇い、彼に警告を出していきたいと思います」
その辺の対応は、相手の反応を見ながら決めていく必要がある。
この件に関しては、事前に知人の弁護士には相談済みだ。
その時受けたアドバイスによれば、警察や弁護士といった存在の陰をチラつかせることで、諦めて引き下がるストーカーがほとんどだが、中には逆恨みで逆上する者もいるので、相手の反応を見極めて行動を起こす必要がある。
大事なのは、これ以上香苗に怖い思いをさせないことだ。
その辺は警察も心得ているのだろう。
相手の反応を見ながら、効果がありそうなら、拓也が更なる法的措置を考えていることを伝えると言ってくれた。
「助けてくれた人へのお礼は、後日改めて行くとして、今日は帰ろう」
必要な手続きを終えて香苗に声をかける。
「これ、奥さんの荷物です」
香苗に付き添ってくれていた女性署員が、拓也に大きなトートバッグを差し出す。
お互い左手薬指に指輪をしているし、事件の経緯を話す中で入籍はまだまだが一緒に暮らしていると伝えたので、そう呼んでかまわないと判断したようだ。
「ありがとうございます」
お礼を言ってトートバッグを受け取った拓也は、それを肩に掛けようとして動きを止めた。
雑多に荷物が詰まったトートバッグの一番上、畳んだタオルの上に載せられているのは、ずっと昔に自分が香苗に贈った写真立てだ。
とっくに捨てたと思っていた写真立てを、今も彼女が持っているだけでも驚きなのに、写真立ての中では、あの頃のふたりが笑っている。
「え、これ?」
「奥さん、どうしてもこれを取りに行きたかったんですって」
拓也がなにを見ているのか理解して、荷物を渡してくれた女性署員が言う。
思いがけない言葉に驚いて香苗を見ると、さっきまで緊張で顔をこわばらせていた香苗が、顔を赤面させて口をパクパクさせている。
その表情が可愛くて、つい吹き出してしまう。
拓也のその反応に、香苗が一段と顔を赤くするので、余計に笑いが抑えられなくなる。
そんな場合じゃないとわかっているのに、愛おしさで胸がいっぱいになり、笑いをこらえられない。
拓也のクスクス笑いとそれを見て赤面する香苗の姿に、室内を満たしていた緊張した空気が一気に和んでいくのがわかった。