冷酷元カレ救急医は契約婚という名の激愛で囲い込む
 うす暗い室内に響くリズミカルな電子音に、香苗は布団から腕を伸ばしてスマートフォンのアラームを止めた。
 その流れで頬を撫でて涙を拭う。

「バカみたい。もう十年以上も前のことなのに」

 高校時代に大好きだった彼と別れてから、十年以上の月日が流れているのに、今も繰り返し同じ夢を見ては涙を流している。
 自分でも未練がましいとは思うのだけど、感情をセーブすることは出来ないのだから仕方ない。
 それほどに自分は、彼のことを愛しているのだから。

「仕事に行く準備をしよう」

 グスリと鼻を啜り、香苗は明るい声で言う。
 そうすることで、夢の余韻を振り払い、気持ちを仕事モードに切り替えていく。
 時計を見ると、今の時刻は十四時。
 遮光カーテンを開けると、一気にゴールデンウィークを間近にひかえた四月の眩しい日差しが、一人暮らしをしている部屋を満たしていく。
 香苗が勤める遠鐘病院は二交代制で、夜勤の勤務は十六時半からなので、今から準備を始めてもかなり時間に余裕がある。
 香苗は軽く両手で自分の頬を叩いて気持ちを引き締め、出勤の準備を始めた。

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