冷酷元カレ救急医は契約婚という名の激愛で囲い込む
拓也との出会いは、香苗が中学三年生の夏休み。彼の通う北高校のオープンキャンパスに行ったことがきっかけだった。
北校は県内有数の進学校であるのと同時に、スポーツの強豪校としても知られている地元の名門校だ。
自由な校風で制服も可愛いので憧れはあったが、当時の香苗の成績では合格は厳しいレベル。
だから受験するかは不明だけどせっかくのチャンスなので見学だけでもしておこうと、友達に誘われて出かけていったのだ。
そうやって訪れた北高のオープンキャンパスは、校門を潜るなり様々な展示物が飾られていて、来場者の目を楽しませていた。
各種部活の活動報告や卒業生の主な進路先の一覧といった掲示物の他、木材を組んで作った立体的なオブジェなどもあり、中学生だった香苗と友達はその場の雰囲気に圧倒されていた。
掲示物に興味を示しながら校舎に向かって歩いていると、友達が香苗のシャツをひっぱった。
「香苗、あの人、イケメンじゃない?」
そう言われて友達が指さす方に視線を向けると、少し先のオブジェの前でチラシを配布している男子生徒が見えた。
来場者になにか質問されたのか、少し遠くを指さして話す彼は、顎のラインがシャープで、形の良い切れ長な目をした精悍な顔立ちをしている。少し横を向いているので、スッキリとした鼻筋をしているのもわかった。
よく日焼けしているので、なにか運動部なのかもしれない。
「本当だ。すごくカッコイイね」
中学生の香苗にとって、高校生なんて別世界の存在だ。
だからこそ、アイドルを愛でるような気持ちで思ったままを口にする。
「だよね。ここ顔面偏差値も高いんだね」
「じゃあ、私たちが合格するのは無理だね」
友達の言葉にそう返して、ふたりで笑い合う。
「香苗は大丈夫だよ」
友達のそんな言葉を聞き流して、そのまま進む。
お互い、せっかくだからと彼が配っているチラシを受け取り、その前を通り過ぎる。
本当なら、そんな記憶にも残らない一瞬の出来事としてふたりの縁は終わる関係のはずだったのだけど。
「キャッ!」
突然強い風が吹いて、香苗たちが手にしていたチラシを巻き上げていった。慌てて腕で顔を庇っても、吹き上げられた小石や砂が顔を打つ。
「ビックリした」
風がおさまるのを待って顔を上げた友達が、手櫛で髪の乱れを整える。
「台風が近いんだっけ?」
今朝目にしたニュースを思い出しながら香苗が言う。
「早く校舎に入ろう」
友達はそう言ってパタパタと校舎へと走っていく。
「あ、ちょっと待って」
香苗が飛ばされたチラシの行方を捜してキョロキョロしていると、背後から「危ないっ」という緊迫した声が聞こえてきた。
「え?」
声のした方をふり返るより速く、誰かが香苗の体を抱きしめ、地面に倒れこむ。
なにが起きたのか理解できず、混乱している香苗の耳に、バキバキとなにかが崩れ落ちる破壊音が響く。
それに続く束の間の静寂の後、周囲が一気に騒がしくなる。
「なに……?」
なにが起きているのかわからない。
香苗は、混乱する思いを宥めて体を動かそうとした。
そうすることで、自分が体格のいい男性に強く抱きしめられていたことに気付く。
窮屈な姿勢でどうにか首を動かして、香苗は目を丸くした。
「クッ」
自分を抱きしめ、地面に倒れこんでいるのは、さっき友達とイケメンだとはしゃいだ男子生徒だった。
香苗を抱きかかえて地面に倒れこむ彼は、左の額から血を流し苦痛に顔を歪めている。
「大丈夫か?」
「今助けるから」
自分たちを囲むように人が集まり、口々に叫ぶ。
そんな言葉を発しながら、数人の男性が男子生徒の上半身を浮かせて、彼の腕の中にいた香苗の体を引っ張り出す。
そうやって助け出されたことで、香苗は自分が強風に煽られて倒壊した木材の下敷きになりかけていたのを、彼に助けられたのだと理解した。
北校は県内有数の進学校であるのと同時に、スポーツの強豪校としても知られている地元の名門校だ。
自由な校風で制服も可愛いので憧れはあったが、当時の香苗の成績では合格は厳しいレベル。
だから受験するかは不明だけどせっかくのチャンスなので見学だけでもしておこうと、友達に誘われて出かけていったのだ。
そうやって訪れた北高のオープンキャンパスは、校門を潜るなり様々な展示物が飾られていて、来場者の目を楽しませていた。
各種部活の活動報告や卒業生の主な進路先の一覧といった掲示物の他、木材を組んで作った立体的なオブジェなどもあり、中学生だった香苗と友達はその場の雰囲気に圧倒されていた。
掲示物に興味を示しながら校舎に向かって歩いていると、友達が香苗のシャツをひっぱった。
「香苗、あの人、イケメンじゃない?」
そう言われて友達が指さす方に視線を向けると、少し先のオブジェの前でチラシを配布している男子生徒が見えた。
来場者になにか質問されたのか、少し遠くを指さして話す彼は、顎のラインがシャープで、形の良い切れ長な目をした精悍な顔立ちをしている。少し横を向いているので、スッキリとした鼻筋をしているのもわかった。
よく日焼けしているので、なにか運動部なのかもしれない。
「本当だ。すごくカッコイイね」
中学生の香苗にとって、高校生なんて別世界の存在だ。
だからこそ、アイドルを愛でるような気持ちで思ったままを口にする。
「だよね。ここ顔面偏差値も高いんだね」
「じゃあ、私たちが合格するのは無理だね」
友達の言葉にそう返して、ふたりで笑い合う。
「香苗は大丈夫だよ」
友達のそんな言葉を聞き流して、そのまま進む。
お互い、せっかくだからと彼が配っているチラシを受け取り、その前を通り過ぎる。
本当なら、そんな記憶にも残らない一瞬の出来事としてふたりの縁は終わる関係のはずだったのだけど。
「キャッ!」
突然強い風が吹いて、香苗たちが手にしていたチラシを巻き上げていった。慌てて腕で顔を庇っても、吹き上げられた小石や砂が顔を打つ。
「ビックリした」
風がおさまるのを待って顔を上げた友達が、手櫛で髪の乱れを整える。
「台風が近いんだっけ?」
今朝目にしたニュースを思い出しながら香苗が言う。
「早く校舎に入ろう」
友達はそう言ってパタパタと校舎へと走っていく。
「あ、ちょっと待って」
香苗が飛ばされたチラシの行方を捜してキョロキョロしていると、背後から「危ないっ」という緊迫した声が聞こえてきた。
「え?」
声のした方をふり返るより速く、誰かが香苗の体を抱きしめ、地面に倒れこむ。
なにが起きたのか理解できず、混乱している香苗の耳に、バキバキとなにかが崩れ落ちる破壊音が響く。
それに続く束の間の静寂の後、周囲が一気に騒がしくなる。
「なに……?」
なにが起きているのかわからない。
香苗は、混乱する思いを宥めて体を動かそうとした。
そうすることで、自分が体格のいい男性に強く抱きしめられていたことに気付く。
窮屈な姿勢でどうにか首を動かして、香苗は目を丸くした。
「クッ」
自分を抱きしめ、地面に倒れこんでいるのは、さっき友達とイケメンだとはしゃいだ男子生徒だった。
香苗を抱きかかえて地面に倒れこむ彼は、左の額から血を流し苦痛に顔を歪めている。
「大丈夫か?」
「今助けるから」
自分たちを囲むように人が集まり、口々に叫ぶ。
そんな言葉を発しながら、数人の男性が男子生徒の上半身を浮かせて、彼の腕の中にいた香苗の体を引っ張り出す。
そうやって助け出されたことで、香苗は自分が強風に煽られて倒壊した木材の下敷きになりかけていたのを、彼に助けられたのだと理解した。