崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 彼の一番の目的を忘れてた、とリビングに置いてある預かった紙袋を取りに行こうとした私の手をパシッと高尚が掴んだ。
「それはあとでいい」
「え?」
「寝室、どこ」
 きゅ、と手を握られそんなことを聞かれたせいか、一気に頬が熱くなる。
(前回シてから二週間だもんね)
 付き合いたての期間の基準はわからないが、彼からぶつけられる劣情を考えればもう限界なのかもしれない。それに、私だって嫌じゃないから。
「……先に、シャワー浴びていい?」
 握られている彼の手を握り返しながらそう告げる。若干恥ずかしく、でもヤキモチを妬いて拗ねていた姿を思い出すとくすぐったい。
 
 あぁ。久しぶりに彼と口づけて、これから肌を重ねるのだろう。
 ドキドキと期待から鼓動が早くなり、きっと赤くなっているのだろう私の頬を指先でなぞった高尚が、私が指をさして示した寝室へと迷いなく歩いていく。

 扉を開き、ベッドへと私を横たわらせ、そして、私の額に冷感シートを貼った。

「は?」
「顔が赤いぞ。知恵熱だ」
「子供じゃないんですけど!?」
「ほら。掃除とうどんは作っといてやるから一旦寝ろ、隈が酷い」
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