崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない

4.それもこれも、糧にするのだ②

「これを次話として掲載することはできないですね」
「……え?」
 それはネームを提出した次の日、打ち合わせで編集部へと来れないかと言われ出向いた編集ブースにて、増本さんから告げられた言葉だった。

「それって、ボツってことですか? 全部? ひとつのエピソードも残さず?」
 漫画家をやっていれば全ボツなんて実は珍しくない。テコ入れという、作品自体の方向性を変える指示が編集側から入ることだってあるし、私は面白いと思ったが知らず知らずのうちに独りよがりになってしまっていることもある。
 気分がノリ過ぎて読者を置いてきぼりにしてしまいダメ出しされるなんてこともあるが、そういう時はどこがどうしてダメだったのかを必ず増本さんは説明してくれていた。
(それなのに、今回はただダメだけだなんて)
 その違和感に、言い知れぬ嫌な予感にじわりと額に冷や汗が滲んだ。

 上手く言葉が出ず、顔が強張ってしまう。増本さんも、いつもにこやかなのに今日は固い表情をしていた。
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