崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 静まり返ったブース内で、壁にかけられた時計だけがカチカチと時を刻んでいるが、一秒一秒が私にとってとても長い時間に感じる。

(私はプロなんだもの、ここでちゃんと聞かなくちゃ)
 どこがダメだったのか、全部ダメだったなら、どう直すのか。方向性だけでも聞いておかなければ、また次も全ボツになってしまうだろう。

 けれどこの殺伐とした雰囲気に呑み込まれ、口を開くが声が出ない。
 そんな私の様子に気付いたのだろう、ハッとした増本さんがすぐににこりと笑顔を作った。

「澤先生のネームが面白くなかったわけではありません。よくかけてるし、弱かった魅力部分がちゃんと表現されていて、雑誌のイメージにも合っています」
「だったら」
「……ですが」
「?」
 話しづらそうに一瞬俯いた増本さんは、ポケットからスマホを取り出し、操作を始めた。何かを検索しているようで、私はその様子を黙って見ている。

 そして私の前に置かれたスマホ画面には、何故か浅見のSNSのページが開かれていた。
 もちろん私とは相互のフレンドではあるのだが、最近ネームにかかりっきりで見に行けていなかった。

「え? えっと……」
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