崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
「ど、どうしたの?」
 ドアを開けた私が呆然としながら尋ねると、手に持ったままのスマホに気が付いた高尚が僅かに眉をひそめ指をさす。
「お前さ、スマホ持ってんなら中も見ろよ」
「え?」
 そう言われ、慌てて確認するとメッセージアプリの受信通知と、着信履歴が二十件ほど並んでいた。

「丸一日連絡つかないとかやめろよ、ビビっただろ」
「丸一日?」
「あ、お前飯も食べてないし寝てもいないだろ。クマもすごいことになってんぞ」
 はぁ、と大きくため息を吐いた高尚だったが、私の目元をなぞる指先はどこか遠慮気味で、ひたすらに優しい。
(普段は一日連絡がつかないなんてよくあるのに)
 それどころか電話だってこの間かかってきたのが初めてだったし、メッセだって一日に数回やり取りすればいい方だった。
 そんな彼がこうして何度も連絡し、返事をしない私を心配して来てくれたのは、増本さんから今回の件を聞いたということだろう。

「高尚……」
「とりあえず家入っていいか? 何か作ってやるから、その間少しでも寝――」
「たかなおぉー……」
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