崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 優しい言葉がすさんだ心に染み、ぽすんと彼の肩へ額をつけるとすぐにぎゅっと抱きしめられた。そしてそのまま抱き上げられる。
「わっ!?」
 突然目線が高くなり驚いた私から思わず涙が引っ込んだ。

 ガチャン、と玄関のカギを締めた高尚が、私を抱えたまままっすぐ寝室へ向かい、私を寝かせたかと思ったら彼自身もベッドへ入ってくる。私の首の下に腕を入れて引き寄せられた私は、すっぽりと彼の腕の中に納まった。
 自分で思っていたよりもずっと疲れていたのか、それとも彼の腕の中が温かかったからなのか。あんなに私を襲っていた焦燥感が溶けるように消え、心地いい眠気に襲われる。

 「ほら。こうしててやるから寝ちまえ」
 ニッとどこか強気な言い方のくせに、まるで慈しむようにそっと頭を撫でられた。そのチグハグな気遣いに、思わずクスッと笑ってしまう。
「これ以上クマができたら厚化粧で若作りしてるって言われるもんね?」
「あれはすっぴんの方が可愛いって言いたかったんだよ」
「あはは、もー……絶対違うから。そもそも初対面で言われたことだから。私は忘れてないから」
「突然すごい圧出すじゃん」
「バレバレすぎんのよ」
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