崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
「うはっ、その返し破壊力あるわ」
 くつくつと堪えきれない笑いを溢しながらそう言った高尚は、はぁ、と大きく息を吐いてから私をじっと見つめた。その視線に、さっきのような胸騒ぎはもうしない。

「それ、知ってたならいい」
(それってどれよ)
 ムスッとした顔を作るが、私の頬がじわりと熱くなるのは止められそうになかった。

 
「じゃあ、犯人がどうやってデータを盗んだか、だよな」
「ちょっ、たまたま! たまたまネタ被りしたって可能性もあるから!」
 浅見を完全に犯人に決めつけて発言する高尚に慌ててそう言い張る。

「というか、弁護士が証拠もないのに相手を犯人だと決めつけるのはまずいんじゃない!?」
 ここは私の家で、私たち以外誰もいないとわかっているのに彼の過激な発言に思わず部屋を見回してしまった。
「弁護士はまず依頼人を信頼するところからはじめるんだよ」
「それ、『私はやってません!』発言を信じるってことであって『あの人が犯人です!』発言を信じることじゃないでしょ!」
「バレたか」
「ちょっと弁護士!?」
(証拠がないのも本当だし)
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