崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 土曜日だからか、どの階にも停まることなく目的である七階へ到着する。エレベーターの先は少し広くなった待合室のようなスペースと、引き戸になっている個室。各個室には大きめの窓がついていた。
 雰囲気は私がいつも増本さんと打ち合わせする時に使ってる編集ブースのようだが、衝立で区切られているブースとは違い、清潔感のある個室病棟のようでもある。

「なんか、病院みたい」
「いや、弁護士事務なんだわ」
 思ったままの感想を口にすると、どこか呆れたようにそんな返事がきた。

「でも部外者が入ってもいいの?」
 気分転換に他の場所で作業しようぜ、なんて言われたのは一緒に朝食を食べたすぐあとだった。てっきりカフェにでも行くのかと思ったのだが、連れられたのがまさかのここだったのである。

「一応言っておくけど、私、訴えたりとかしないからね?」
「わかってるよ。というかこういうトラブルは証明が難しいんだ。裁判するとしても早くて二年はかかるだろうな」
「ひぇっ」
「つーか言っただろ。気分転換がてら別の場所で作業しようって」
「それは覚えてるけど」
(落ち着かない……)
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