崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 悪いことをしているわけではない――はずなのに、自信がない。高尚はともかく、私は完全にこの事務所とは無関係だし、別にここは図書館でもなんでもないのだ。そんな場所で作業なんかして、本当に怒られないのだろうか、と不安になっていると、くすりと笑った彼がわざとらしくお辞儀をしながら私の方へと向き直った。

「本日はようこそおいでくださいました、澤みのり先生。今回は取材ということでお間違いはありませんか?」
「へっ!?」
「漫画の取材ですよね?」
「……!」
 ニッと含み笑いを向けられて私もついプッと笑ってしまう。
(そういう設定でいくんだ)
 確かにそういった建前があれば、部外者がいる大義名分ができるだろう。
 それに、彼が私の漫画のモデルであることも決して嘘じゃない。

「俺がみのりの漫画のモデルなんだからいーだろ」
「でもそれ、屁理屈って言わない?」
「ルールってのは守るだけが大事なんじゃない。破らないことが重要なんだよ」
「どんどん弁護士のイメージが崩れていくよー」
 堂々ととんでも理論を突きつける高尚に苦笑する。

「……なにか、思い付くといいな」
「ん。ありがとね」
< 128 / 161 >

この作品をシェア

pagetop