崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない

4.それもこれも、糧にするのだ⑥

「んー、ここ、もう少し何かないかな……」
 作業環境を変えたお陰か、それともしっかりと寝て食事もとったからなのか。家であんなに描けなかったことが嘘のようになんとなくの全体がまとまってくる。大体のこの一話に入れる内容のイメージができたお陰で、キャラたちも少しずつ動いてくれているという感覚と手ごたえを感じ始めていたのだが、ここから更に一歩踏み出すような何かの盛り上がりはないかと首を捻った。
 だが、私は水道ではないのだ。捻った程度でいいアイデアなんてすぐには出ない。

「トイレでも行こうかな」
 少し気持ちを切り替えようと立ち上がる。同じ姿勢を続けて固まった体をほぐしながら、高尚に教えて貰ったトイレへと向かった。

 手を洗い、鏡で自身の姿を確認すると、昨日はあんなにくっきりあった目の下のクマが消えている。顔色も良くなっている気がするし、不安定だった気持ちも今は安定しているようだ。
(これも全部高尚のお陰かな)
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