崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 求めていた〝あと一歩〟を見つけ興奮した私が思わず声を出すと、その声を封じるように柔らかい何かで唇が塞がれた。ふにゅ、とした感覚で少ししっとりとした温かい何かが私の唇から離れたかと思ったら、すぐにまた、今度はさっきとは違う角度で重ねられる。
(この感触って)
「……静かにって言ったのに」
「んっ、ん」
 くす、と小さく笑ったような声が聞こえ、すぐにまた唇を塞がれたかと思ったら、私の唇を割るように温かいものがそっと唇をなぞり、口腔内へと入れられる。くちゅ、と小さく水音を立てながら掻き混ぜられると、流石の私も口づけられていると気が付いた。
「ほら。声出さないで?」
「んんんっ!」
 舌同士を擦り合わせながらそんなことを囁かれる。静まり返った室内にぴちゃ、ちゅくといった淫靡な粘液質な音だけが響いた。

(……静まり返った?)
 舌が絡まり、扱かれながらふとそこに気付き、彼の脇腹を思い切りつねると、「うぉっ」と小さな叫び声と共に口づけが止まる。
「ねぇ、もしかして今この階には」
「ははっ、気付いた? もう俺たちだけ」
「やっぱり!? どうりで静かだと思った!」
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