崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 念のため小声で聞いた私に笑いながらそんな返事がきて、思わず大きな声をあげる。さっきの女性は本当に帰っていたらしく、声を出しても高尚には何も言われなかった。

 カチャ、と扉を開けた音が聞こえ、誘導されるように廊下へと出てやっと視界を塞いでいた手が外される。
 いつからからかわれていたかはわからないが、おそらく最初にキスされた時からだろう。

「私のことオモチャにして」
「だってあんな状況なのに、完全に漫画モードに入ってたからさ」
「文句?」
「いや、一生懸命で可愛いなって思って」
「またからかう!」
 ぷく、とわざとらしく頬を膨らませると、片手で潰され、そしてまた掠めるような口づけが降ってくる。

「それで誤魔化されると思ってる?」
「どうだろ。でも、何かいい案は浮かんだって顔はしてる」
 お見通しとばかりのドヤ顔に、私も口角をニッとあげて返事をした。
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