崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
(わざとだ!)
 またからかわれたのだと気付き、ズンズンと大股で彼の隣まで歩く。

「いい!? ヒーローってのはこんな時完璧にエスコートするもんなの!」
「だから手を繋いでやっただろ。離したのはみのりじゃん」
「あれは辱めたって言うのよ! スパダリ舐めないで!?」
「俺がモデルなんだろ? じゃあ俺が正解だ」
「こんな横暴、ヒーローじゃない!」
 ギャアギャアと喚きながら話していると、そんな私たちを見ていた増本さんがとうとう吹き出し、そこでやっと我に返った私は顔が一気に茹で上がる。私とは違い涼しい顔をしている高尚を睨むと、笑いながら増本さんが口を開いた。

「ふたりが仲睦まじくて安心した」
「そ、それは、その」 
「これだけ元気なら大丈夫だろ」
「あ……」
 そしてそう続ける高尚にぽかんとする。
 どうやらこれも、彼なりの気遣いらしい。ちょっと小学生に寄ってる気がするが。

(でも、今日が決戦、だもんね)
 なんだかんだで緊張も解けた私は、今度はいつも通りの歩くスピードで、いつも打ち合わせで使う編集ブースではなく、会議室へと足を進めたのだった。
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