崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
「いや、休みを取って休んでるんだからおかしくないだろ。大丈夫かその社畜精神。はっ、普段の俺たちか?」
「はっ! 確かに!?」
「でも本当に今日はいいんだ。今日は、みのりを甘やかしてやろうって思ってたから」
 告げられた言葉にぽかんとした私を、そっと高尚が抱きしめる。そしてまるで子供にするように優しく背中を叩きながら、頭を撫でられた。

「高尚、私ね」
「あぁ」
「――っ」
「無理に話さなくていい。……俺の出番にならなくてよかったな」
「……うん」
 彼の温もりに包まれ、体からどんどん力が抜けていく。緊張で強張っていた心に染み込むように彼の言葉がするりと届いた。
 私が落ち着くまでただ抱きしめられる。そうやってどれくらいの時間を過ごしたのだろうか。

「ん、ありがと。落ち着いた」
 彼の腕の中でもたれるように委ねていた頭をそっと持ち上げ彼を見上げる。
「はぁー、本当ごめん。甘えてばっかでダメだな、私」
 高尚という人物に漫画の参考として頼り、高尚という彼氏に修羅場後の部屋の片付けを頼み、高尚という弁護士に仕事上のトラブルで頼る。
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