崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 漫画家としても彼女としても、人としても頼るばかりで彼に何もしてあげられていないと改めて気付き、そんな自分に少し落ち込んだ。

「これからはちゃんと自分でもっとなんでもやるから! まずは次の原稿だから、結局自分のことで申し訳ないんだけどさ。でも高尚の役に立てるように頑張る」
「だったら、側に居てよ」
「あはは、それこそこんな私でよければって感じ」
「言ったな? ずっとだからな」
「こちらこそ望むところ――、え?」
 ずっと、と言った高尚がスーツのポケットから小さな紺色の箱を取り出し私の前で開ける。中には銀に輝く一本の指輪が入っていた。

「え、え? これ」
 ゆったりとしたウェーブに添うよう輝くダイヤが並んでいる。シンプルで、華奢で、どこか優雅さも兼ね備えたような指輪はすぐ私生活を蔑ろにしてしまう私にはもったいないが、宝石が小粒に設定されているお陰で服にも引っかから無さそうだ。そして常に仕事で手を使っていても邪魔にならない。
 きっと、そういう私の性格的な部分も考慮して選んでくれたのだろう、この指輪は、どう見ても。
「結婚しよう、みのり。愛してる」
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