崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 重ねられたその言葉に、私の視界が一気に滲む。
 コクコクと何度も頷くと、ふはっと彼が笑った気配がした。

「今、言質は取ったから」
「じゃあこれが物証ってやつ?」
 どこか冗談めかして笑いながら私の薬指に指輪がはめられる。その指輪を眺めながら、私も軽口のようにそう返事した。
 そしてどちらともなく、私たちの唇が重なった。

 ◇◇◇
 
「ん、んっ」
「好きだ、みのり。最初に言った通りだったろ」
「はっ、あ……、え?」
「好きになる確信があるって言っただろ」
 付き合うことを決めた朝。確かにそう言われたことを思い出す。
(きっと私も同じだった)

「私……あ、はぁ……、んっ!」
 返事をしたいのに、体を揺さぶられながら口づけで言葉を封じられてしまい、結局私の口からは意味をもたない甲高い嬌声だけが零れ出た。
 彼に奥を突かれるたびに伝えたい言葉が打ち消され、言葉にならない。けれど、荒い吐息で私を翻弄する高尚は、目が合うとふわりと笑みを向けてくるので、私の気持ちは伝わっているのだろう。

 その〝わかっている〟感が少し悔しくて、私は両足を彼の腰に絡ませぎゅっと全身でしがみついた。
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