崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 くす、と笑われてドキリとする。それと同時にじっと見惚れていたことに気付かされた私は、自身の動揺を悟られないように一気にアサリの味噌汁を呷った。
「それ、癖か?」
 一気飲みし空になった汁椀を机に戻した私は、どこか呆れたような視線を向けられ首を傾げる。そして不思議そうな私に小さくため息を吐いた彼が、コン、と指先で汁椀をつついた。
「図星を指されて一気飲み」
「そっ、れは……!」
 指摘され一気に頬が熱くなった。
 昨日も同じことをやらかし、一気にビールを呷った結果が今なのだから。

「――その、私、昨日のことあんまり覚えてなくて」
 黙っていても仕方ない、とそう小声で告白すると、高尚さんが驚いたような顔をする。
「全く、か?」
「いや、その……売り言葉に買い言葉で喧嘩したことは覚えてます」
「それほぼ最初じゃねぇか! え、じゃあみのりが『無礼には無礼を返すんだ』って俺の口に無理やりレンコンのはさみ揚げを突っ込んだことは?」
(私そんなことしてたの!?)
 自分のやらかした所業に愕然とするが、どうやら私のやらかしはまだまだあったらしい。私と同じく愕然とした表情を浮かべた彼が言葉を重ねた。
< 16 / 161 >

この作品をシェア

pagetop