崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 セオリーは守っているし、一ページに入れるコマの数だって増えすぎず、かつ単調にならないようにも気を付けている。SNSでの告知だって頑張っているのに、何故か連載になると伸び悩むのだ。
「絵だって流行りを取り入れて古臭くならないように気を付けてるのに」
 はあぁ、と地を這うような深いため息を吐きながら思わずそう呟くと、さっきまでただ首を振るだけだった増本さんが口を開く。
「男性キャラが弱いな」
「え」
 ポツリと告げられた言葉に唖然とした。
 
 キャラが弱い? この完璧なヒーローが?
 愕然とする私とは対照に、増本さんはペラペラと私のネームを捲りながら口を開く。
「まず、このヒーローの設定は?」
「そりゃ、スパダリですよ。完璧で冷静で、なんかこう……なんでもできます」
「他は?」
「あと、お金も! 持ってます」
「で?」
 で、と言われても、と私も自身のネームへと視線を落とす。このヒーローは少しドジで可愛いヒロインを守るための包容力を持ったスパダリなのだ。それ以外を聞かれても、と思わず口をつぐんでしまった。
「それから――顔が、いい?」
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