崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 どうやら思ったよりも私は浮かれているらしい。
(高尚といるのが案外心地いいからかも)

「彼氏かぁ、いいなぁ。でも修羅場を見られるのってちょっとキツイかも」
「あー、それは確かに」
 余裕を持って進行する、なんて正直至難の業だ。
 前半の作業で時間を巻いたとしても、時間がある限り少しでもよくできないかと締め切りギリギリまで粘ってしまうというのは私の悪い癖だと自覚があった。
 そんな中で、しかも連載中というタイミングで誰かと付き合い始めるだなんて私ですら自分に驚きだ。

「次はいつ会うの? というか連載抱えて会えるの?」
「土曜日に会う、かな」
「明日じゃん!」
 聞かれたまま素直に答えると、愕然としたような叫びが浅見からあがった。それはそうだ、締め切りまであと二週間。それに私が人物の下書きを終わらせないとアシスタントさんに頼む仕事がない。

「ちょ、ラブラブなのはいいことだけど。締め切り大丈夫なの? 会ってる間は原稿できないんだよ? 私はまぁ、この間のコンペ落ちちゃったからみのりに予定合わせられるけどさぁ」
「大丈夫、事前に伝えてた日程でいけると思う」
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