崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 確かにさっき眠った時は彼の方を向いていたはずだが、今は背中を向け、背後から抱き締められている。
 
 まだハッキリしない思考の中、服の上からゆっくりと動く高尚の手にピクリと反応した。最初は腹部を撫でるように動いていた手が少しくすぐったかったのだが、少しずつ下がった彼の手がするりと裾から服の中へと入り、肌に直接触れられる。

「……起きてる?」
 小声でそう問いかけてみるが返事はない。
 後ろからがっつり抱き締められているお陰で振り向くこともできないが、ずっとベッドの中にいるお陰か肌に触れる彼の手も温かかったので私はまたうとうととした。

 けれど彼の手は止まることなくそのまま腹部を撫でながら更にあがり、とうとう胸の膨らみを包むように動く。相変わらずうとうとと微睡んでいた私だが、流石にここまであからさまに触れられれば寝てなんていられない。

「起きてる?」
 再びそう問いかけるが返事はない。
「起きてるよね?」
 もう一度問いかけるた、ふっと小さな吐息が彼の口から漏れ、私の髪を少しだけ揺らした。
「起きてるんでしょ」
< 64 / 161 >

この作品をシェア

pagetop