崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
「あ、はぁ……」
 入って来て早々に席に着いている私をチラッと確認した高身長の男性は、そのまま大きすぎる舌打ちをして私の担当編集である増本さんへと視線を移す。高尚と呼ばれた男性がまるで地を這うような声色で文句を言うが、そのことに怯むどころか笑い飛ばした増本さんはこの冷え切った空気を物ともせず私に彼のフルネームを教えてくれた。
(この人が増本さんが言っていた、漫画のモデルになり得る人?)
 確かに顔はいい。完璧かはわからないが、冷静……というより冷酷そう。着ているスーツが上質そうだしこの足の長さだ、きっとオーダーメイドなのだろう。つまりお金もあるということだ。
 そして大事な欠点だが――
「おい。紹介だとか言ったらぶん殴るぞ、俺はこんなちんちくりん全く好みじゃないからな! それとも後で女が追加されて合コンだなんて言わねぇよなぁ!? お前は俺の顔で釣らなくても女なんて食い放題の顔してんだろッ」
「ははは。相談だって言っただろ? 経費で落とすから気にせず飲んでくれ。高尚、とりあえずビールでいいか? いいよな。すいませーん、生追加で」
「話聞けッ! 勝手にビール頼むなアホッ」
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