崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない
 私がデビューする前にSNSで繋がっていた漫画家志望同士の友人の中には、折角担当がついたにも関わらず、いや担当が付いたからこそ返事が来なくて病み筆を折った作家だって少なくない。それに、これは私がアシスタントとしてお世話になっていた先生から聞いた話だが、大御所作家様でも返事を後回しにされていたり、よくわからない修正などを何度も言われてとうとう心を病み前回の担当に戻して貰ったり、前の担当を追いかけて雑誌を移籍したなんて話も聞いたことがある。
 私自身も担当が増本さんに代わる前は返事が遅い方だったので、これは単純に担当編集の運だろう。増本さんが仕事のできる編集なのだ。

「まぁ、増本さんのお陰で無事に予定通り明日からアシスタントさんに入って貰えてありがたいよ」
「だね! さ、みのりは明日アシスタントに仕事を振るためにちゃちゃっとペン入れしてもろて」
 さっきの低めの声からコロッと声色を明るく変えた浅見が少しおどけてそう口にする。
 そんな彼女に乗るように、私はにこりと笑って頷いた。
 下絵ができたら次はペン入れ――清書の作業である。
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